「さて、気を取り直して。ポージングの確認といきましょうか」
「ぽぉじんぐぅ?」
「当たり前じゃない。ブルーローズの見た目でスカイハイの決めポーズしてたらどう思う?」
「・・・面白いわな」
「でしょ?」
「衣装を着ている人は特に気にしない人が多いんですけど…やはり見てる人とか写真を撮る側の人にとったらなりきって欲しいというか…それっぽく振舞ってほしいというか…」

 イワンのしどろもどろな意見に虎徹はふと夏のイベントの際にキースと一緒に覗いたコスプレゾーンの風景を思い出した。ヒーローのコスプレをやっている人が結構な数がいる中、ワイルドタイガーをしていた人もかなりいたのだ。そしてその人それぞれにこれと言って決めポーズのなかったタイガーの取りそうなポーズをしてみたり、ブルーローズと一緒の時に苦し紛れで考えたポーズをしてくれていた。
 あれは本人としても結構嬉しいもので……

「あ〜…なるほどなぁ…夏ん時もスカイハイの格好してる子はもれなく『ありがとう、そしてありがとう!』ってやってたわ」
「自分達でもそれっぽいポーズを考えたりもしますけど、やっぱり元がいらっしゃるから忠実が一番ですよね」
「うんうん、納得した。ってことは、俺はブルーローズの真似すりゃいいんだよな」
「そういうことよ」

 感慨深く頷いていた虎徹が確認を取るように声に出してみると、ネイサンが満足気に頷いてくれた。

「っつーことはぁ…」

 あれこれと考えながら足元を見つつ角度の調整や重心の位置を確認し始めた虎徹をネイサンとイワンがじっと見守っていると、立ったまま片足を折り曲げるとその膝に片手を滑らせ、もう片方の腕は髪を掬い上げる様に顔の奥へと持ち上げられた。ベタなセリフで表現すれば、『うっふ〜ん』とでも入るのではなかろうか。

「これでどうだ」
「OKOK。爪先もしっかり伸びてて女らしくって笑顔もバッチリ☆いいんじゃない?」
「おっしゃ」
「一発クリアだなんて…すごいです…」
「そうかぁ?普段から見てたらなんとなく覚えるぞ?」
「そうですか…観察力が足りないんだな…僕って…」
「観察力ってか、記憶力?」
「……うぅ……」
「こらこら、追い討ちかけないの」
「あ…悪ぃ…」

 しょんぼりを通り越してどんよりとした雰囲気を纏ってしまったイワンを慰めるべく頭を撫でてやる。とはいえ、グローブの付け爪が引っかからないようにしなくてはいけないからかなりぎこちない。それでもいくらか気分を浮上させてくれたらしく、くしゃりと情けなさそうな笑みを浮かべてくれた。

「さ、今度はイワンちゃんの確認よ」
「は、はい!」

 さらに切り替えられるようにとネイサンが指示を飛ばしてきた。それはしっかり功を奏したようで渡された棍を両手で持ちながらソレらしいポーズを構成していく。思い描いた形になったようで、ぴたり、と止まった。

「こんな…感じでしょうか?」
「そうねぇ…悪くはないけど…う〜ん…」
「何かまずいですか??」
「違和感があるのよねぇ…」
「違和感…ですか…」
「ねぇ、どう思う?徹子ちゃん」
「そうだなぁ…刀とか薙刀持ってそうな感じだな」

 少し離れたところからまじまじと見ていたネイサンとその横に並ぶ虎徹が揃って渋い表情をした。それは変だ、ときっぱり言えるほどおかしなポーズではないのだが、ドラゴンキッドが、と考えるとやはりおかしく思える。
 頭のてっぺんから足の先までじっくりと見た虎徹がぽふり、と手を叩く。

「重心がおかしいのかも」
「「重心?」」
「両足の真ん中に落とすからおかしいんだよ。ちょっとななめに倒してだな…」

 思いついた虎徹が構えたままのイワンに近づきあれやこれやと修正を加えていく。しばらく続いた後、虎徹が離れるとネイサンが関心したように頷いた。

「そうね。今の方がしっくりくるわ」
「そんなに違いますか?」
「デカイ差じゃねぇけどな。片手を前に出したら歌舞伎の『見得』になっちまいそうだったぜ?」
「折紙サイクロンみたいな、ね?」
「それは…マズイですね…」
「ちょっと意識するだけで変わるから深刻に捉えなくても大丈夫だろ」
「はい!」

 向上心と前向きさがびしびし伝わってくる表情のイワンに、にこにこと微笑みながら頭を撫でてやる虎徹を見てネイサンは…ふむ…と考えた。ジムでよく見ていた光景ではあるのだが、『ブルーローズ』と『ドラゴンキッド』の二人、と考えると別の方向性に発展する腐妄想が首をもたげ始める。
 ネイサンとて『この世界』に入ってからの歴史というのは本当に長い。長いが故に、腐属性の皆様方がどういう妄想を繰り広げるか、萌を感じたりするか、といったことを客観的に分析できるようになったのだ。その結果が組み替え自由なCP主張アクセサリーだったりするのだが……
 この辺りの経過はさておき……普段ともにヒーロー業を勤しんでいる時は気づかなかったが、こうして二人だけを並べてみるとこの頃ちらほらと見かけ始めたCPにも納得がいくかもしれない、と感慨深く頷いた。

「ついでに2ショットの確認もしておきましょうか?」
「「2ショット??」」
「えぇ、そうよ。背中合わせに立って戦闘態勢っていうのも格好いいけど、仲良しな二人っていうのも欲しいじゃない?」
「なるほど」
「見ていて微笑ましいですものね」
「女の子同士の仲良しこよし…っつーと…こんな感じか?」
「ッ!!!」

 物は試し……と虎徹が片足を上げつつイワンに抱きつく。すると、抱きつかれた方はびしっと音が出そうなほど見事に固まってしまった。

「あら?イワンちゃん?お顔が怖いわよ?」
「そ、そ、そ…」
「?どうした??」
「や、やわ、やわっ…」
「あぁ、『コレ』のせいか」
「刺激が強過ぎたのねぇ」
「精巧すぎんだよ…デカイし…」
「あら、いいじゃない。男のロマンだもの」
「や…でも…もう少し抑え気味でも…」
「あんたの体型からしたらそのくらいで丁度いいのよ」
「そうかぁ???」



掲示板:おまいら冬の祭典を実況しやがれ>>
−サブイベのスタッフ マジ勇者www
−なにごと?
−kwsk
−会場の隅で赤女王がコススタッフに指導してるんだが女草
−Σ(゚Д゚)スゲェ!!
−コスプレ男子応援し隊だっけ
−それでか コススタッフが全員男なのはwww
−全員女草?
−ばらばらだた
−ゲームとかアニメの男キャラ確認
−赤女王の指導してる女草は何を?
−青薔薇と龍子
−Σ(゚□゚(゚□゚*)ナニーッ!!
−エェッ!?(* □ )~~~~~~~~ ゚ ゚
−Σ ゚ロ゚≡(   ノ)ノ エェェ!?
−青薔薇たんだとぉう(−x−;)
−見るに耐えられ   ないことない
−どっち
−全然OKぽ( `д´)b
−吹っ切れてるからかポーズに切れがあってヨロシ
−おぱーいデカスギ(~∇、~;)
−ゆさゆさしてんなwww
−実況するなしwww
−Gはあるか?
−おぱーいの谷間が鼻血もの( ´ ii ` )
−えせ乳だがな
−あれも赤女王サークル製品だ
−つなぎ目が綺麗に隠れてマジもんみたい
−まさにネ申wwwww
−赤女王は乳まで作ってんのかwww
−抱きつかれた龍子の顔真っ赤www
−ウラヤマシス
−えせなんだろ?
−でもすっげ気持ちよさそう
−龍子そこ変われ
−今度は龍子が青薔薇を姫抱っこしたし
−なんだただの龍薔薇か
−なんだただの百合か
−なんだただの楽園か
−行きてぇo〜((((〜´∀`)〜
−今そこに行きます−=≡ヘ(* - -)ノ
−私も行きます!≡≡≡ヘ(*゚∇゚)ノ





「・・・」

 先行入場の波が落ち着いた頃、携帯を片手に『ロゼ』は眉間に深い皺を刻んでいた。会場内の現状把握の為に掲示板を見ていたのだが、非常に不愉快な書き込みを見つけてしまったのだ。ブルーローズでもある『ロゼ』ことカリーナにとってバストの話題は禁句のようなものだ。それでなくてもお尻が大きい、太ももが太い、胸が小さいと女の子ならではの体の悩みを3拍子で揃えてしまっている。そこに追い討ちをかけるように『巨乳なブルーローズ』がいるなど……たとえ似非乳でも彼女の神経を逆撫でしてしまっていた。

「………『ロゼ』?」
「あ!はいッ…て…『部長』さん?」

 うっかり怖い顔をしてしまっていた、と我に返ると、スペースのテーブルの横へちょこんと屈みこんでいる『部長』の姿に気づいた。どこか申し訳なさそうな表情に何かあったのか?と首を傾げると、顔の前でパンッと両手が合わされる。

「忙しいとこ申し訳ないんだけどっ…ちょぉっとだけ店番頼まれてくれないかしら?」
「え?店番…ですか?」

 唐突に意外なことを言われてきょとり、と瞬く。そろり、と彼女のサークルの場所を覗くと今は誰もいない。ちょうど人が途切れたのだろう。けれど、まだ先行入場で入った人はいるだろうし、他のところを回ってからくる人も少なからず存在すると思われる。なのに、なぜか『部長』は目の前に座り込んでいるし、『部下』であるメアリーの姿が見当たらない。

「『部下』さんは?」
「…それがねぇ…一般入場が始まる前に狩りとコスゾーンに派遣したのよ…」
「コスゾーンも、ですか?」
「えぇ。あの子の知り合いがコスプレしてるらしくてね。先行入場で入ってもうすぐ着替えが終わるからって撮影にね」
「え…でもそれ…カメラですよね?」
「…そうなのよ…」

 座り込んだ『部長』の膝の上にころん、と乗っかっている機械を指差す。紛れも無くカメラ。しかもプロが使うような一眼レンズ。
 指摘したとたん渋い表情になった『部長』にだいたいの察しがついてしまった。

 撮影に出かけたのにカメラを忘れていったのだ。

 取りに帰ってまた行って…としていると時間が勿体無いし、『部長』一人で裁くのは大変に違いない。なので『部長』がカメラを届けに行って時間のロスを防ごう、ということだ。しかし、そうなるとわずかであってもサークルを留守にしてしまうことになる。

「カメラ届けに行くだけですよね?」
「そう!5分くらいで済むはずなの!」
「ん、分かりました」
「よかったぁ〜!ありがとぉ〜!!」
「ホントに早く帰ってきてくださいね?」
「もちろん!行ってきますッ!」

 ぐっと拳を握り締めた『部長』は勢いつけて立ち上がると颯爽と去っていってしまった。その後姿を見送って、カリーナはサークル仲間に断りを入れると『部長と部下』のスペースへと移動した。
 何がどこに置いてあるのか勝手にあさるのは少々気が引けるが、しょうがないこと、と割り切って漁らせていただく。出来れば人が来ませんように、と不謹慎なことを考えながら椅子に腰掛けると人の気配に顔を上げた。

「…あ。」

 目の前に立つ青年にカリーナは絶句してしまった。女性向け同人誌を扱うフロアが密集しているところに男性がいるということ事態が珍しい。だが、絶句したのはその事ばかりではない。
 甘いマスクに明るい金髪のさらさらとした髪、男性でも高い部類に入るだろう長身はしっかり鍛えられている事が窺える。爽やかなスマイルは数多を魅了できるだろう、その人は非常に見知った人物で……

「おはようございます、そして失礼します」

 お馴染みの口調でにこやかに挨拶してきた彼は、間違いなくキース・グッドマンだ。

「ど…どうも…」

 まさかの人物との遭遇に口がひくっとおかしな具合に引きつった。

「今回は再録本だけかな?」
「へ?あ…っと…そう、です、ね」
「うん?」
「あ、あの私、臨時の売り子で…」
「あぁ、なるほど」

 ついつい曖昧な答え方をしてしまい首を傾げられてしまった。慌てて言い訳をしてみると納得顔で頷いてくれた。どうやらカリーナだと気づいていないようだ。内心ほっとしつつも、いつばれるか冷や冷やしてしまう。
 そんなカリーナをよそにキースは平積みさせてある本の表紙をじっくりと眺め始めた。

「……あ…の…常連さん…ですか?」
「うん?」

 思わず口を付いて出た言葉にキースは不思議そうな表情で顔を上げる。

「いえ、あの、その…このフロアに男性がいるのって…やっぱり…珍しい…というか…」
「あぁ、そうだね。やはり女性ばかりの華やかなフロアに踏み込むのはなかなか勇気がいるからね」

 失礼だったか、としどろもどろになってしまうが、キースの方は特に気にすることもなく満面の笑みで受け答えてくれる。そうして照れくさそうな笑みを浮かべた。

「いつもは知り合いに頼んで通販していたのだけれど。夏を境に踏み出してみようと思ってね」
「……夏に何か?」
「うん。実は、敷居が高いと思っていたコスプレゾーンに行ってみてね。心から楽しんでいる者は拒絶されないのだと知ったのだよ」
「…は…ぁ…」

 少々言い回しが仰々しいが、つまりは温かく迎え入れられた、という事なのだろう。というか、目の前の人物が『敷居の高さ』など感じる人物だったのか、という事実の方に驚愕してしまった。
 ……本人に対して大変失礼ではあるが……

「だから、こちらでも包み隠さず真っ直ぐに参加すれば受け入れてもらえると思ってね」
「…そう…デスネ…」

 むしろ爽やか過ぎて誰も突っ込めないというか、受け入れざるを得ないというか……恐るべし天然ハイ。


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