果てしなくギャグ風味です。
キャラクター崩壊に注意!


「(…本日は…修羅場なりッ!!!)」

 シュテルンビルドには夏になると、一部の市民がこぞって集まるイベント会場がある。それこそ…一区画の住人すべてがそこに終結しているのではないか?…と疑うほどの大人数だ。老若男女集うその会場で行われるイベントは…

 …アイドルのコンサート…

 違う。ブルーローズならきっと張り合えるかもしれないが…残念ながら、ヒーローが関与しないイベントだ。

 …今をときめく芸能人…

 これも違う。残念ながら、ヒーロー以上に人気のある芸能人というのが存在していないのだから。

 では…何のイベントなのか?

 『腐』の属性を持つ一部の人間に『夏の祭典』とよばれている特殊なイベント…


 『同人誌即売会』


 普段は一般市民ぶってはいても誰しもが持っている…裏の面…隠された欲求を堂々と満たすことの出来るイベント。
 ページ数にしては高価でありながら、需要の高い本を自費生産して持ち寄り、売買されるイベント。
 それらの薄い本には作者の憧れ、夢、妄想といった産物がぎっしりとつめられており…年に数回しか行われない大イベントを目当てに同じ趣味の人々がこぞって集まってきている。その為に集う人数が半端ないのだ。

 何より…ここ数年で一番の盛り上がりを見せている区画がある。今回のイベントで目玉と言ってもいいそのジャンルは『ヒーロー』部門だ。
 ヒーロー事業が統一されたことにより、今まで現場でしか居合わせなかったヒーロー達がプライベートでいかなる日常を過ごしているのか…それに加え、マンスリーヒーローが貧相だったページ数からその厚みを大幅に増やしたおかげでヒーロー達へのインタビューや、サービスショットが満載に取り込まれ…その結果…イベントに集まる人々の妄想が非常に掻き立ててしまうのだ。
 それというのも…今年、彗星のごとく現れたルーキーの影響である。
 彼は、唯一の顔見せヒーローであり、容姿はさることながら…その柔らかな物腰と万人受けするスマイルは数多くのファンを勝ち得た。さらに…デビューした日に相棒であるワイルドタイガーを姫抱っこで救出したこともあってその人気はウナギ登り…いや、勢いとしてはハンサムエスケープ並の上がり具合だ。

 今までのヒーロー部門といえば…ワイルドタイガーとロックバイソンの筋肉フェチを追求したもの…ファイヤーエンブレムによるヒーローハーレム…折紙サイクロンとドラゴンキッドのハチャメチャギャグやKOHことスカイハイとブルーローズの少女マンガ…氷の女王ブルーローズの調教もしくは陵辱もの…とヒーロー各々がそこそこの幅を利かせていたのだが…バーナビーの参入によってその均衡していたバランスが一気に崩れ去ってしまったのだ。

 彼を絡めた場合に、圧倒的な数を勝ち得ているのは…相棒であるワイルドタイガーとのコンビもの。
 中でも…『腐女』と呼ばれるお嬢様方に大変美味しい妄想となっているのが…この二人におけるBLものだ。
 元々タイガーは雑誌などのインタビューを嫌う傾向にあり、決して媚びる事はしない。後ろ指をさされようがどやされようが、頑として己が意志を貫く頑固なイメージだったのだが…バーナビーとバディを組むことによって多かれ少なかれ…ヒーロースーツ以外の姿を見せるようになった。その為に絡ませやすい、という点もあるようだ。

 そしてこの度は、バーナビーがヒーローに加わって初の祭典。彼を取り扱う作家…もといサークルが多くひしめく中…それを目当てに集う人々も多く…開場待ちの行列が入場規制がかかるのではいか…と心配するほどになってきているらしい。場内アナウンスを耳にしながら…一腐女である…アニエス・ジュベールは搬入口から大箱を抱えて足早に歩いていた。

「(何よりもまずスペースの設置を済ませてしまわないと…おちおちパンフレットも開けない…何より、美味しそうなサークルが確認出来ないわッ)」

 長机が並べられた通路を歩いていると、何人か顔見知りのサークルの女性が挨拶をしてくれるのに対して朗らかな笑みで応えながら…腹の中では今日一日の動きを何度も確認していた。いつもはカツカツと硬質な靴音を鳴らす足は…ゴトゴトと少々重たい音を奏でレースアップのサイドをジャラジャラと鎖が揺れる…ぴたりと腰に沿う黒のホットパンツにトップスは黒と紫のレースキャミソール…腕は日焼け防止につけているのかと疑う黒のアームカバー…ロングヘアは纏め上げて黒のキャスケットの中に隠してある。
 …そう…今の彼女は普段のキャリアウーマンの風体を覆すようなパンク系の格好をしていた。いつもよく顔を合わせる人間が出会ったとしても気づくかどうか…

「(あ…ヤダ!今のサークルに置いてあったピンバッチ可愛いじゃないの!あ〜ッスペースナンバーが見れなかったぁ!!!)」

 自分に課せられた仕事が第一…とアニエスは歩き続ける…そしてようやく着いたのは…大手サークルが並ぶ壁際スペース。ほとんどの搬入物は会場のスタッフが机の上においてくれてあったのだが…印刷所から直接搬入してもらった新刊の箱がない事に気づき、自ら取りにいっていた。

「あ、おかえりなさーい、部長〜」
「ちょっと!ちょっとちょっと!パンフレットを今すぐ開いて!」
「え?どうしたんですか??」

 箱を置くなりとんでもない剣幕で迫る彼女にたじたじになりながらもパンフレットを取り出したのは、紫地に大輪の薔薇を描いた浴衣に襟や帯周りにレースを飾り付けた黒髪の女性だ。浴衣帯でありながら兵児帯も併用しているせいか、ボリュームのある帯はひらひらと動いて愛らしい。けれど…彼女は…メガネこそかけていないが…アニエスの部下であるメアリー…その人だった。

「あたしが今通って来た通路!ピンバッチ職人がいてめっちゃくちゃ可愛いのがあったのよっ!」
「えぇ!本当ですか!」
「島の端だから結構有名所かもっ!」

 メアリーが広げかけていた水色と黄緑のボーダー柄をした布を代わりに広げつつパンフレットをめくってもらう。そうして会場内の見取り地図と照らし合わせながら目当てのサークルカットを見つけた。

「あ!うそっ!これって…」
「え?何??知ってるの!?」
「知ってるも何もっ!店頭販売も自家通販もしてるけどすぐに売り切れになっちゃうんです!でも予約は一切受け付けない…有名どころじゃないですか!」
「そっそうだったの?…知らなかった…」
「まぁ…仕方ないですよねぇ…ほぼこもりっきりで執筆活動してますもん…」
「…ね…ねぇ…?」
「分かってますよ。ちゃんと買出しに行く時買ってきます」
「ありがとう〜!いつもの二人でお願いするわぁ〜」
「バッチOKです!」

 現場で会う二人からこんな会話はきっと想像もつかないだろう…それほどこの祭典は人々を熱狂の渦に突き落しているのだ。確認を済ませたメアリーはさっそく、とばかりに設置作業を再開する。サークルが分かりやすいように…と大型のポスターを展示するためのポールを取り出すとサクサク組み立ててしまった。そうして破らないように…折り曲げないように…と細心の注意を払いながら広げたポスターには…長いコートの裾を広げたフルフェイスマスクの男が青いピタピタのヒーロースーツに身を包んだ男を片腕で抱え、もう片方の手は互いの指を絡めて…踊っているかのようなポーズをしている。

 いわずと知れた…スカイハイとワイルドタイガーだ。

 タイガーの方は旧スーツを着ているのだが…そのおかげで照れたように赤面する表情が良く分かる。スカイハイはというと…マスクを被っているのだが…わずかに開かれたマスクの隙間から微笑む唇が見えていた。
 何を隠そう…アニエスとメアリーはスカイハイ×ワイルドタイガー萌に属するサークルの大手だ。優等生なキング・オブ・ヒーローが古株のいいトコなしな崖っぷちヒーローをさりげなく助け、時に甘えて…イチャイチャするばかり…かと思えば、嫉妬深いスカイハイが甘いお仕置きを施すなど…豊富な展開とヒーロースーツのままで隠れて愛を育む話が得意で総集編も過去3冊ほど出してきていた。

「はぅぅ〜…いつ見ても感激ですぅ〜」
「ふふ…ありがと」
「新刊の表紙も胸キュンしちゃいますっ!」

 そう言って開いた箱から取り出した薄い本の表紙をうっとりと見つめる。その表紙にも描かれているのはスカイハイに抱き込まれたワイルドタイガーだが、こちらは仮面の上から口付けている場面だ。それだけならまだしも…タイガーのお尻からあるはずのない虎の尻尾が生えており、覆面のマスクも一部が虎の耳に変わっていたりする。

「今のうち一冊確保しておきなさい?そんなもので悪いけど…いつものお駄賃よ」
「そんなものなんてとんでもないっ!帰ったら速攻で読んで美味しく頂かせていただきますぅ」
「ありがと…でも…本当はねぇ…
 新スーツで描きたかったんだけど…破りにくいそうじゃない?あれ。」
「最新テクノロジーの塊ですもんねぇ…でも私思ったんですけどぉ…アンダースーツなしのプロテクターだけって言うのも良くないですか?」
「プロテクターだけぇ?」
「ほら、白い装甲部分と大事なトコを覆いかぶせるサポーターだけっていう状況になるじゃないですか」
「…………………だっ、だめよ、そんな…卑猥ルド過ぎてスカイが戦えなくなるじゃないっ」
「だ・か・ら。ぼろぼろになりながらも戦い終えた後に、お仕置きしちゃうんですよ☆」
「………美味しいわね、ソレ…次の新刊でやってみようかしら」
「わぁ〜っぜひとも!今から全裸待機に入ります!」

 …なにやら不穏な事この上ない会話が展開されているが…間違いなくヒーローTVのクルーである。
 …ただ…………平常時に限る…
 こんな会話はしていてもさすがといえよう…手は休むことなく動かされていて本の配置やディスプレイを確認しつつ、お金の確認もしてもう少しで設置は完了してしまいそうだった。

「…あの…すいません…」
「はいは〜い?」
「こちらのスペースナンバーってお聞きしても…いい…です…か…」
「…あら?…」

 かけられた声に振り返ると、カートを引くロリータ少女がいる。くるくるに巻いたツーテールに薔薇のコサージュをつけたリボン…服は小さい薔薇のプリント布地で作られたふんわりと広がるロリータワンピースで、ピンク色のマニキュアにも薔薇の紋章が使われている。ぷっくりとした瑞々しい唇は淡いローズピンクだが…アニエスは彼女の顔に見覚えがあった。
 雰囲気こそ違えど…

 『氷の女王』で名を馳せているブルーローズだ。

「………え??」

 しかし…驚いたのはアニエスだけではなく…ブルーローズこと、カリーナも盛大に驚いていた。
 会場に到着したものの、地図を見て歩いているはいるが…設置の準備で大忙しの人を目の前にスペース番号を確認させてください、とは言いがたく…設置がほぼ終わっているところに声をかけたのだ。振り返った女性は…雰囲気こそ違えど…顔のパーツ、大きさ、配置…そして何より、口元のセクシーなホクロ…ヒーローTVで何かと世話になっているアニエスにしか見えない。
 まさか…と叫びたい気持ちを抑えて、ちらりともう一人の売り子らしい女性を見やる…スイッチャーのメアリーだ。
 さらに恐る恐る視線を動かして…でかでかと展示されているポスターを見る。

「(空虎最大手の『上司と部下』じゃないの!?)」

 『上司と部下』は、カリーナがこの世界に足を踏みはずしたきっかけとなったサークルだった。
 まだ何も知らない、ヒーローにもなっていなかった…中等部に上がりたての頃…仲の良かった友達がある日顔を赤くしたり青くしたりと忙しなく変えながら一冊の薄い本をこっそりと見せてくれた。

 そして目撃してしまう…

 ワイルドタイガーをスカイハイが押し倒している場面を。

 最初の衝撃というのは凄まじかった。それこそ、頭の中にその場面ばかり思い浮かび、ヒーローTVすらまともに見ることが出来なくなる始末。
 …けれど…ドキドキしたのも確かで…
 その日から友達がこっそり持ってくる薄い本に夢中になった。年齢制限にひっかからないいわゆるマークなしのものばかり読ませてもらい…学生生活を過ごす合間に元からやっていた歌を考える合間、息抜きとして妄想にふけるようになっていた。
 しかし…イマイチタイガーの良さが理解できない。何せタイガーを見るのはヒーローTVしかない。そこから妄想を広げればああいう話を書けるのかもしれない…けれど…カリーナには『理解出来なかった』…つまり…『萌えなかった』。


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