捏造チーム&キャラクター有


"Variety is the spice of life."
『色々なことがあったほうが人生面白い』

『麻薬密輸組織を発見…ただちに現場へ向かってください。』

 その指令が出されたのが数十分前。
 いつもの顔馴染みであるヒーロー全員集合したのが数分前。
 そして…手分けして事に当たっているのが現状。

「無茶しないでください!」

 下っ端はほとんど片付いた。
 残るは今目の前を走る首謀者のみ。
 早々にノルマ分の人数に縄をかけた虎徹とバーナビーは、あろう事か子分を盾に己は逃げ果せようとしている主犯を追いかけていた。

「無茶すんなっつったって!…この瞬間逃したら後々面倒だろ!」

 バーナビーが犯人の行く手を阻み、挟み打ちにしようとした瞬間、隠し持っていた劇薬らしき液体が入った銃を放ち始めた。間一髪で避ければ背後のコンクリートが溶解していく。
 …当たれば間違いなくヒーロースーツもろとも液体化決定だ。
 どれほどの量の劇薬を持っているかは分からない。だがそれらが撃ち止めになるのを悠長に待てるわけもなく…
 いつもの如く、ワイルドタイガーが犯人に突っ込んでいったのだ。
 構えた腕を叩き上げて銃を弾き飛ばす。宙を舞う銃は応援に駆けつけてくれたブルーローズが凍らせてスカイハイが回収してくれたので中身をぶちまけずに済んだ。
 無駄な抵抗をやめない犯人はワイルドタイガーに殴りかかってくる。その拳を叩き反らしてしまえばあっさりと崩れる体勢…背中を押さえ付ければ拘束出来ると思った瞬間…

「!」

 もう片方の手が、上体を捩じりながら握りしめていた小瓶をタイガーの顔に叩きつけた。マスクをしているのでダメージは少ないが…隙間から侵入してきた薬の効果が何か分からない。顔に飛び散る薬液に顔を歪めながらも腕を掴み上げて地面へと沈めた。これで後は拘束を施せば終わる。
 …が…
 タイガーが全く動かなくなった。

「?何してるんですか?さっさと拘束してください」
「………」
「?おじさん?」
「どうしたの?」

 首謀者も無事取り押さえられてやれやれ…と皆が集まりつつある。その中でも…タイガーはやはり動かなかった。それどころか先ほどから一言も発していない。
 その様子を訝しげに首を傾げたバーナビーの元へブルーローズが近づいてくる。気配だけでそれを感じ取りながら目の前で座り込んだ背中をじっと見る…

 …その肩が小刻みに震えているようだ。

「!」
「え?何!?」

 突然走りだしたバーナビーに驚いたブルーローズはその先にいるタイガーの様子にやっと気付いた。先ほどまでは何もなかったかのように見えたのだが、上体が揺らぎ始めている。様子が明らかに可笑しい。

「どうしたの!?」
「分かりません。ただ…さきほど犯人に何かの薬を顔にぶつけられてました」

 今や倒れそうになっている肢体を支えながらバーナビーはタイガーを覗きこむ。その声は冷静そうな言葉に反して焦りが滲み出ていた。
 覗き込んだマスクには何の損傷もない…さきほどまで使われていた溶解剤の類ではないようだ。

「…ば…に…」
「なんですか?」
「…こぅ…そく、を…」

 ようやく返された言葉にちらりと視線を下げる。
 押さえ込んでいる犯人は気を失っているらしく、ぴくりとも動かない。それどころか、その体が少し地面にめり込んでいる。内臓破壊などしていなければいいが…

「…はや、くっ…」

 どうやらタイガーは犯人が気を失っている事が分かっていないらしい。「拘束をしなくてはならない。」という観念に囚われて現状が理解出来ていないようだ。どちらにせよ拘束を施さなくては動かない事は分かったので、押さえ付けた男の両腕を縛り上げた。

「っ…」
「ッ!!」

 縛り終わった瞬間、隣で体が仰け反っていく。後ろへと倒れ込むタイガーをスロー画像を見ているような気分で見入っていると虎の咆哮が耳を貫いた。

「ッタイガー!?」
「やだっ、何!?何なの!」

 どしゃっ…と重い音を立て地面に転がったタイガーは体を捩って悶え始めた。マスクを上げてスピーカーを切ると耳鳴りのする耳でも苦しげに吠える虎の叫びが聞こえる。ロックバイソンとファイアーエンブレムが尋常ではない様子に駆け寄ってきた。あまりの悲痛な声にブルーローズは立ち竦んでしまっている。
 苦しみ悶える彼の姿が映像に映されてるだろう…だが、このままでは事態収拾とはいいがたく…ヒーローTVのクルーも切り上げ所が見つからずに現状維持のままだ。

「タイガー!しっかりしろ!おい!」

 タイガーに何があったのか聞こうにも本人は錯乱しているかのような状態では無駄だった。

「ひとまずマスクを外してあげて!」
「くっ…バーナビー!腕を押さえてくれ!」

 のたうち回る体を押さえつけたバイソンが吠える。空から降りてきたスカイハイとファイアーエンブレムは足の方へと回っているので振り回される腕が自由なままだ。苦しみから逃れようともがく腕が押さえつける巨体を叩く…無意識に能力を開放しているのか、肩を叩かれたバイソンが苦しげな声を上げた。

「ッ…大人しく、して、くださいっ…」

 宙を行き交う腕を掴み取り体重を掛けて押さえつける。だがそれだけでは振り解かれそうになるのでこちらも能力を駆使することになる。

「ドラゴンキッドはこっちに近づかないで!」
「っマスクを…!」
「は、外し方が分からないっ…」

 カタカタと震えて動けないブルーローズの代わりに折紙サイクロンが手伝いにくる。だが、構造を全く知らない彼にはどうすれば外せるのか分からなかった。

「あ…」
「…ぉ…」

 バーナビーの指示を受けつつ外せた、と思った瞬間押さえ込んでいた体から力が抜け落ちた。くたり…と投げ出される四肢に、押さえ込んでいた面々がそろりと離して行く。

「…タイガー殿?」
「…先輩?」

 顔に近い二人が覗き込むと、晒された額に粒のような汗が滲みでていた。瞳も開いているが、どこか空ろに見える。

「おい、大丈夫か?」
「…ばいそん…」
「あぁ。」
「…おりがみ…」
「はい。」
「と…ばにぃちゃん…」
「バーナビーです。」

 声に覇気はないが、いつもの調子である言葉にそれぞれほっとした。一番離れた場所で待機していたドラゴンキッドがそろりと近づいてくる。

「…何だったの?」
「…んー…と…」

 ゆったりと瞬きを繰り返す様子に大丈夫、とは思いがたく、話せないほどにもがいていた理由あたりを聞いてみる。するとぼんやりとしたままではあるが、そろりと口を開いた。

「なんか…焼き鏝で体の中…引っかきまわされる…みたいな?」

 その言葉に全員目を反らせたのは言うまでもないだろう。思わず想像してしまった何人かはぶるりと震えてしまった。
 しかしその説明でさっきまでの苦しげな咆哮も、もがき方も納得がいく。

「なんにせよ…命に別状がなくてよかったわ」
「ん…ありがと…」
「さ、いつまでも転がってないで。立ってください」
「んー…むりぃ…」
「は?」
「力、入んない…」
「…まったく貴方は世話の焼ける…」

 思い切り顰めッ面になってしまったバーナビーだが、へろり…と力なく振られる手にため息を吐き出した。

「…一応身体検査しといた方がいいんじゃないかな?」

 バーナビーがタイガーの上体を抱え起こしていると、腕組をして考え込んでいる格好をしていたスカイハイがぽつりと呟いた。

「けんさぁ?」
「…そうねぇ…あのタイガーがこんな状態になるんだもの…何か別の作用があったら大変ですものね?」
「一理あるな。スカイハイ、運んでやってくれ」
「私が、かい?」
「あぁ、バイクだと振動が辛くなる可能性があるだろう」
「…そうですね…それに犯人に何の薬か問いただしておかないと…」
「そうだね…了解した。そして承諾した」
「…わりぃな…」

 地面に座り込んだままの体を抱き上げるスカイハイへ申し訳なさそうに声を掛けると、仮面に覆われながらも漂いでるさわやかなオーラのもと一言返してくれた。

「気にしないでくれ」
「あ…あと…姫抱っこじゃない方が…」
「それは聞き入れられないかな。この状態が一番人を抱えて飛びやすいんでね」
「…そ…か…」

 へなりと曲がる眉に諦めたと判断すると、事後処理を任せて飛び上がっていった。

 * * * * *

 スカイハイに抱えられたまま会社へと運び込まれる。テレビを見ていたであろう救護班がストレッチャーと共に迎えてくれた。
 放送では苦しげに声を上げている姿しか見られず、それもあまりに悲痛な叫び声だから途中から切り替わってしまったのだといっていた。その為にワイルドタイガーがどうなったのか分からずハラハラしていたら、スカイハイが抱えて飛んでいく映像が流れたので慌てて準備をしたのだそうだ。心配してもらえた事に少々気恥ずかしく思いながら、検査をしてもらう。

「…どうでした?」

 検査室から出る頃には動かなかった手足もマシになり、少々ふらつきはするが歩けるようになっていた。無理はするな…と救護班のメンバーは言うが、ヒーローがへたった姿を見せるわけにはいかない、と言って用意してくれた車椅子を断った。なにより…車椅子に乗ってしまえばたとえ何も検査で引っかからなくてもまるで大怪我をしたように見えるではないか。
 ひとまず外傷らしきものもなく、薬の成分を調べようにも回収できるものもない。
 血液検査もしておいた方がいいだろう…と血を抜かれて出てきたのだが…

 廊下のベンチにバーナビーが腰掛けている。しかも検査結果まで聞いてくるから、彼なりに心配してくれたのだろう。しかしからかうだけの余裕がまだないので笑みを浮かべるだけで終わっておいた。

「一応…オールグリーン…血液検査があったけど…ま、すぐには出ないしな」
「…そうですか…」

 結果の報告をすると、あからさまにほっとした顔をしてみせるから目を見張ってしまった。少々気まずげに頬を掻いて何か話題を探す。

「…犯人の、方は…?」
「複数、骨を折ったので意識が戻りませんでした。明日には聞けるでしょう」
「…そ…っか…」
「…着替えてきて下さい」
「ん?あぁ…まだ、何か…あんの?…あ、始末書…とか?」
「違います。」

 そういえば事後処理云々を任せっきりだと思い出して頭を掻いたら、呆れたようなため息が吐き出されてしまった。ちょっと…機嫌が悪いかも…と首を傾げると、サングラスを持ち上げながら鋭い視線で射竦められる。

「あなたを自宅まで送るんですよ」
「………送ってくれんの?」
「そんなふらふらして帰られて途中どこかのマンホールにでも落ちたらそれこそ迷惑ですからね」
「…マンホール…て…」

 いつものバーナビー節にさっきのは幻だったのか…と肩を落としてしまう。

「ほら、早くしてください。皆さん外で待ってくれていますから」
「…みんなぁ?」
「心配して来てくださってるんですよ」
「…俺、頑丈なのに…心配性だな…みんな…」

 どうやら他のメンバーも検査結果を聞きに来ているようだ。確かに苦痛の悲鳴を上げてのた打ち回っていたのだから心配にもなるだろう…更なる気恥ずかしさに苦笑をもらして更衣室へと向かう。

「(スーツ…斉藤さんにも会っとかないと…変なもん着いてたらマズイしな…)」

 なんて考えていると更衣室の前に斉藤が立っていた。小さい声を聞き取ってみると「体の方はどうだった?」と聞かれたので「全く問題なし。」と答えればほっとした顔をしてくれる。パーツに変な薬かけられた事を謝ると「君が無事だったのだから問題ない。」といってくれた。つくづくいい人ばかりだ。と感激してしまう。

「…っふぅ…」

 その場でパーツを渡してアンダーを着替える。ぴたりと体に沿うアンダースーツは色の関係もあってか保温性が少々高い。ジッパーを下げて素肌を外気に触れさせるとかなり気持ちいい。痛みに耐えたせいもあって汗もかいたものだからじっとりとして気持ち悪かったのだ。

「……ぅん?」

 軽く体を拭って服を着ていったのだが…ベルトがやけに緩い。いつも使っている部分は穴が少し緩んでいるのだが…ソコに通すと腰骨のあたりまでずれ落ちそうだ。きゅっと締められるところまでいってみると2・3個隣の穴まで回ってしまう。

「…痩せた?」

 ほんの1時間かそこらでそんなわけはないだろうが…考えたところでさっぱり分からない。考えても分からない事は放置するに限る、と虎徹は特に深くは考えずに終わらせてしまった。

 * * * * *

「ッ!」

 息苦しさに目を覚ました。
 昨日、何だか分からない薬をぶっかけられたが特に検査では異常はなく…会社から出て行くと心配げな表情を浮かべていたみんなにも結果を話して安心してもらった。
 その後は宣言通り、バーナビーの運転するバイクで送ってもらい…
 体が欲するままに眠りについたはずだった。

「…ぅあ〜…汗だくじゃん…」

 つぅ…と頬を滑る雫を乱暴に拭いとる。じっとりとした布の感触からもかなり汗をかいたことがすぐに分かった。汗を流してから出社するかとベッドから降りてバスルームへと向かう。
 …が…

「…ぅん?」

 ベッドから降りる瞬間、胸元で何かが動いたことに気が付いた。シャツの下は素肌だけのはず…しかし、何かが擦れた音…動物は飼っていない…いや、それ以前に自分以外の気配も、体温も存在していない。
 言いようのない漠然とした嫌な予感のもと…恐る恐る俯いてみる。

「…………………ッ!!!!???」

 顎のすぐ下に見えたモノに目を見開いた。

「…なに…コレ…」

 そろり…と手を宛がってみる…ふにゃり…とした柔らかく弾力のある肉の感触が手に広がる。

「ッ!!!」

 猛ダッシュで洗面台へと駆け込む。台の淵に両手を付いて映り込む姿を凝視した。マジマジと覗き込んでまず顔に視線が固定される。自らのトレードマークであるヒゲが存在している…と思ってそろりと触ってみると…それはヒゲ…というよりは刺青かペイントのように肌の滑らかな感触を返してきた。深いため息を吐き出して…おもむろにシャツを脱ぎ捨てる。

「…むね…だよな?」

 鏡の中では顔面蒼白な自分がこちらを見ている…血の気の引いた顔から徐々に視線を下ろして行けば見慣れぬ2つの山…否…肉の塊とでも言おうか…両腕を上げて見る…少し横向き…逆方向…つなぎ目らしきものはない。
 パーティーグッズのジョークコスチュームという線は消えた。じっと見つめて…思い切り両手で鷲掴んでみた。

「ぅひっ!?」

 突如襲ったざわりとする感覚に背筋がぴんっと伸ばされる。明らかに神経が通っている証拠だ。
 そこまで確認すると…更なる追い討ちをかけるかもしれない事柄が頭に思い浮かんだ。
 …胸よりももっと下…腰よりも…下…

「…なぃ…」

 さわっ…と股上に手を沿わせてみると…『予想通り』何もない。
 襲い来る眩暈にがくりとその場へ膝をついた。

「…有り得ねぇ…どうなって…」

 床と睨めっこしながら呟いた独り言は途中で不自然に打ち切られた。
 …なぜなら…

 もしかして…という心当たりに辿りついたからだ。

 しかし…確かめるにしてもまずは出社しなくては始まらない。
 深い深いため息を吐き出す。

「よし!まずシャワー!そして飯食って出社!!」

 大声と共に言い聞かせて気合を入れた。なにも女体に触るのが初めてなわけでもない。…ただ…『自分の女体』…というのがかなり複雑ではあるが恥らうことでもないのでさくさくと服を全部脱ぎ捨てるとバスルームへ入っていった。


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