果てしなくギャグ風味です。
キャラクター崩壊に注意!


 合戦の時…開場時間となった場内は妙な緊張感に包まれていた。アナウンスでも一般入場の開始が告げられ、会場内の賑やかさが増してくる。ヒーロー部門が集められたフロアの大手サークルが並ぶ一角で一人の『少女』がスペースの中で座り込んでいた。

「折が…じゃなかった…撫子さぁん、準備終わりましたよ〜」
「あ、ありがとうございます」

 しゃがみこんだ背後から掛けられた声に慌てて覗き込んでいた携帯から顔を上げた。すると呼びかけてくれた売り子…もとい、ホァンがこてん、と首を傾げる。

「何かあったんですか?」
「え?…あぁ…ちょっと…掲示板で気になる書き込みを見つけて…」
「どれどれ?」

掲示板:おまいら夏の祭典を実況しやがれ>>
−ちょいイケおやじが休憩スペースでコーヒーブレイクしてた
−え?あれおやじだたか?
−もっと若く見えたよ〜
−あ、見た見た!今確認した!なにあれ!仰け反る首筋エロス!
−仰け反る?何してんの?武●士ダンス?www
−容姿kwsk
−外見kwsk
−足ほっせ!腰ほっせ!女の敵wwwww
−組んでる足のラインが徹夜明けの保養
−アジアンじゃね?黒髪で黄色肌
−日本じゃね?あっこの国童顔多いって聞く
−このクソ熱いのにシャツネクタイにベスト…あれは漢だな!
−ナニソレ 季節感ないだけじゃね?
−ネクタイ緩める動作とか…ぷまいです、先生!
−キャスケット被ってて顔があんま見えない
−あの体型からしてオヤジはねぇだろ
−兄貴ぃぃぃッ!!!か?
−どっちかってーとお兄さん
−いやまて日本人はお兄さんと見せかけて実は三十路後半とか普通だと聞く
−三十路後半wwwww
−マジでかwwwwwwww
−こんな三十路後半がいるなんて天然記念物
−保護対象生物wwww
−絶滅危惧種wwwww
−え?首輪着けてお持ち帰りおkだろ
−ちょwwwおまwwwww
−おいおいおいおいおいおいなんてこった
−なんだ?どうした?
−kwsk
−続きを待機
−続きを全裸待機
−見間違いかと思ってじっくり見直したんだけど
−じっくりwwww
−見直しwww
−必死だなwwwww
−何があった?
−あ、うん。やっぱりあった
−勿体つけてんじゃねえぞ(゚Д゚)ゴルァ!!
−さっさと吐きやがれ(#゚Д゚)ゴルァ!!
−この兄さんワ/イ/ル/ド/タ/イ/ガ/ーみたいなヒゲがある
−(゚д゚)!
−Σ(゚Д゚;エーッ!
−( ; ゚д)ザワ(;゚д゚;)ザワ(д゚; )
−猫か?
−二匹の黒猫か?
−ニャーンか?
−ニャーンなのか?
−さすがに写メは撮れないが顎ににゃんにゃんがいる
−にゃんにゃんwwwww
−サークルの宣伝じゃね?
−kwsk
−どっかのスペースにヒーローに因んだアクセとかのグッズを作ってると小耳に挟んだ
−詳細キボンヌ




「…え?ナニコレ?」
「僕もちょっと詳しくは分からないんですけど…」
「タイガー…来てるの?」
「いや…でも…今日は久々にもぎ取った休暇だから実家に帰るって言ってたはず…」

 この目撃情報から二人が想像できるのはたった一人。けれどこんな会場にいるはずのない人。というのも理解している。他人の空似…にしては出来すぎているように思えて首を傾げた。

「(…出れそうにねぇなぁ…)」

 一方…掲示板で噂になっているなんてまったく知らない虎徹はコーヒーを啜りながら入り口からどんどんと雪崩れ込んでくる人波をちらりと見る。本当ならばとっくに会場の外へ出ていたはずなのだが…『クイーンレッド』…もとい、ネイサンに売り子をしないかとしつこく迫られ…そこから逃れたと思えばROCK・WINDの『兄』こと、アントニオと、『弟』ことキースにも同じように迫られてしまった。おかげで会場から出るタイミングを完全に逃し、とりあえず一般入場が落ち着くまで時間潰しを…とコーヒーを啜っている。
 けれどこんな時間帯に休憩スペースに人がいるのが珍しいのか…近くを通り過ぎる人がじろじろと見ていく。先ほどなんて、一度通り過ぎたのにわざわざ戻ってきた人もいた。早く収まらないかなぁとひたすらぼんやり時間が過ぎるのを待ち続ける。

「(…そういや…)」

 何気なく天井を見つめていた視線を手元に下ろしてくる。ネイサンがようやっと開放してくれた際に持たせてくれた会場地図だ。これを頼りに休憩スペースに辿りついたようなものなのだが…
 彼(彼女?)が「どうせ会場内にいるんだから楽しみなさい」と言って本人お勧めのサークルの場所と何を扱っているサークルなのかを簡単に書き込んでくれている。とはいえ、この人ごみの中を動き回るのは骨が折れそうだ…と虎徹はやはり座ったままでいた。



「撫子さぁん!第一波が落ち着きを見せ始めておりますっ」

 一般入場が開始してから約一時間。先ほどまではスペースの前に長蛇の列を作っていたが、落ち着き始め最後尾が近い位置になってきた。列の整備を買って出てくれていたホァンがスペースの中に入って来ながら、近況の報告をしてくれる。その報告に、箱から新たに並べる本を取り出していた…ホァンの2Pカラーのような姿に擬態しているイワンが見上げた。

「あ、ありがとうございます」
「結構出たねぇ〜」
「はい。とてもありがたいことに…一箱分は出てしまいました」

 在庫の確認をしている二人の背後では目を輝かせて本を選び、会計をしているお嬢さんの対応を卒なくこなすホァンの母親がいる。最初売り子を買って出てくれた時は慣れない作業に付きっ切りで指導に当たっていた事もあったが…今ではりっぱな売り子さんになっていた。

「ここはボクに任せて。今の内に買出しに行ってください」
「え?い…いいのかな?」
「はい!お土産も期待してますっ!」

 ぴしり、と敬礼をする彼女の腹がタイミング良く可愛い音を立てて後押しをする。

「早急に帰って来た方がいいですね」
「ん。大丈夫だよ!今日の為にたんまり持って来てあるから!」

 そう言って満面の笑みで引き寄せたのは7泊8日は出来そうな大型トランク。首を傾げているとファスナーを開いて中を見せてくれた。その中にはぎっしりと詰められたお菓子の山…

「会場内の売店で大量購入するのはマズイから持って来ちゃった」
「準備…いいですね…」
「はい!2時間は保たせられるよ〜」

 こんなに量があるのに二時間なんだ…とは面と向かって言えなかった。

「そ、それじゃあお言葉に甘えて行ってきます」
「うん!いってらっしゃぁ〜い!」

 元気良く送り出してくれるホァンにイワンは自然と笑みを浮かべて手を振りつつ…自分へのご褒美という名の『狩り』に出るのだった。

 携帯を意味なく弄りつつ時間を潰していた虎徹は時間を確認して、そろそろ昼時だなぁ…とぼんやり考える。会場の中に売店や喫茶店があったのは知っているが…人が殺到しているだろうな…と思い時間をずらすことにする。今から会場の外に出てもいいが、真夏日の真昼間…いくら鍛えているとはいえこの時間帯に冷房設備のない外へ繰り出す気力は欠片として湧いてこなかった。

「うん?」

 もう少しの間、現状維持に決定…と思った時、不意に肩を叩かれた。肩越しに振り返ってみると、爽やかオーラ当社比八割り増しの笑顔を浮かべるキースが立っている。

「やぁ!わいるぶっ!!」

 爽やかにいつもの呼び方を口にしようとするので慌ててハンチングで顔を覆い隠す。その場を速やかに離れるように首に腕を回すとそそくさと通路の隅の方へと引きずっていった。

「<っこのバカっ!こんなトコでその呼び方はマズイだろ!>」
「<ん?うん、理解した!そして思いついた>」
「うん?」
「虎徹くん。」
「………ん、それならいい」

 小声で怒ればすんなりと頷いてくれる。その上、ニカッと笑いかけてくるので首を傾げた。するといつもと違う呼び方を早速してくれる。むろん、本名は出していないのでこの呼び方で気づかれることなど皆無…よしよし、と頷いて返すと、彼の手に大きな紙袋が確認できた。

「それより…どうかしたのか?買出しとか?」
「いや、買出しではなく、買い物に回ってたんだよ。それも無事に終わった」

 声が他に聞こえにくいようにと口元にかざしていたハンチングを被りなおすとキースは問いかけに首を横に振る。そして手に持った紙袋を掲げて見せる。何やら目当てだったものを無事にゲット出来たらしく、ほくほくとした様子だ。

「そっか。じゃ、今からアントンとこに戻るのか?」
「うん…そのつもりだが…」
「?何かあったか?」

 途端にしょんぼりとした雰囲気をまとう彼に虎徹は眉をひそめた。いつも天然炸裂で悩みなんて存在しなさそうな彼が困ったような表情を浮かべている。

「実は…ずっと行ってみたかった場所があるのだけど…一人では行き辛くて…迷っているんだ…」
「んー?だったら一緒に行ってやろうか?」
「本当かい!?」
「おう、俺でいいなら」
「もちろんだよ!大感激だ!」

掲示板:おまいら夏の祭典を実況しやがれ>>
−コスゾーンに空虎の伝道師が降臨
−詳細kwsk
−空虎でコスしてたら爽やかイケメンが写真を一枚って言ってきてその上ポージング指導を軽やかにやってのけた
−しかも連れのメンズと絡んでお手本披露
−それ近くで見てた
−眼福な光景ありがd
−画像キボンヌ
−残念だが一般の人で写真はNGだ
−せめてどんな構図か詳細キボン
−空が虎を抱き上げてた
−演出って言って空のコートなびかせてた
−え?空コスの中の人力持ち?
−違う違う
−後ろからイケメンが手伝ってた
−空のコートに隠れてる姿がマジ天使
−想像するだけでヨダレもの
−ちなみに連れはノンケっぽい
−お手本披露の際に滅茶苦茶照れててこっちが恥ずかしくなったwww
−マジでかwww
−ナニソレ萌える
−ナニソレ滾る
−腐イケメンとノンケのメンズが目の前で新たな指導を開始
−ノンケは結構ノリがいいみたいで吹っ切れたようだ
−吹っ切れるのかwwwww
−イケメンにアドバイスしてた
−姫抱っこも披露してた
−やっぱり恥ずかしそうだった
−タ/イ/ガ/ーのにゃんこポーズも指導してくれた
−ノンケの腰つきテラエロス
−エロスっつかカオスwwwww
−その後のイケメン&ノンケをkwsk
−空虎の絡みが好きみたいで空虎2人組を狩りに行った
−貴重な人材www
−奇跡の人材wwwww






「ッ!!!!!」

 人の熱気がぐんぐんと右肩上がりに上昇しつつある会場のスペース内で、『部長』ことアニエスは雷に打たれていた。人が減って来た事をこれ幸いと水分補給をすべく陳列から離れる。会計係りを公私ともに『部下』であるメアリー一人に任せて水を飲みがてらネットを開いていたのだ。すると、とんでもない実況が書かれた掲示板を見てしまう。思わず持っていたペットボトルを落としてしまったが…幸いなことにキャップはしたままだったので大惨事にはならなかったのだ。

「どうしたんです?部長?」
「こっ…こっ…こっ…」

 タイミングよく人が途切れた所で陳列の補充をしつつ話しかけてくるメアリーに携帯を渡した。交代で補充をテキパキとこなす間に掲示板に書かれた文字を読み終えたメアリーが今にも倒れそうな表情になっている。

「わた…わた…わた、し…」
「買出しついでに偵察してきなさい」
「ッ行って参りますっ!」
「2時間は余裕で保たせておくわ」
「了解です!それでは狩りにも行って参ります!」
「健闘を祈るッ!」

 どこに入れてあったのか…一眼レフカメラを首からぶら下げたメアリーはエコバックを肩から掛けるとギリ競歩の早さで目の前の通路へと消えていった。開場前に話していたピンバッチから狩るようだ。その最良な判断にアニエスは満足気に頷くと、先ほど見ていた掲示板の内容をコピーし始める。

「(何かあったのかしら?)」

 そんな二人の様子を横目に見ていた『ロゼ』…ことカリーナは気になりながらも手を休ませることはない。今彼女はスペースの中で本日限りの無料配布本を製本していた。早朝からコンビニに駆け込んでコピーを完璧にしてきたのだが、さすがにモノレールの中であんなこんなそんなシーンがある本の製本など出来るはずもなく…丁寧に折っては重ねてホチキス留めを…と淡々と繰り返している。もう少しで終わるので昼ごはんを食べようか…と考えていた矢先の異変。
 あの冷静(だと思う)なアニエスがメアリーを急かしてまでお遣いに出した真意が知れない…その分かなり気になってしまう。
 『マダム』がスペースを離れたというならば、こちらに連絡が入るはずなのでどうやらこの線は違うようだ。なんだろう?とますます疑惑を深めてカリーナは黙々と製本作業をこなしていった。


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