※モブ虎表現有
※兎虎



 今日も今日とてPR素材の取材だの写真撮影だの…と…飛び回る相棒に付き合い外に出ているのだが…目的はバーナビーだけだ。虎徹としては退屈なことこの上ない。
 唯一の救いは天気が良かったことくらいではないだろうか?
 アニエス達と打ち合わせをしている光景を木陰でぼんやり眺めていると、ふと一人の男が目についた。見学者に混じってはいるが、どこか一線を引いたような雰囲気と、上等なスーツを着こなしている風体がやけに気になった。帽子を少し深く被るふりをしてじっと見つめると見覚えの在る顔だ。
ただし…悪い意味で…

「…なんか用スか?」
「…あぁ、ワイルドタイガーか…」
「えぇ、ども。」

 バーナビーをじっと見つめていた男は虎徹が近づいた事に気づかなかったようだ。突然掛かった声に驚いた顔を向けるも、にこにこと愛想の良い笑顔を向けているとあからさまに嫌そうな顔になった。

「うちの相棒に御用入りでも?」
「まぁね…」

 何でもないように近くの壁へと凭れてゆったり足を組む。その動きを見ていたらしい男は目が合った瞬間顔を反らせた。
どうやら間違いないらしい。

「どんなご用件で?」
「君には関係ない」
「そうっスか?」

 軽く突付いてみると思った通りの反応だった。これは早々に手を打つべきだな…とため息交じりに『セリフ』を口にした。

「てっきりお相伴のご依頼かと思ったんだけどな…」
「………」
「図星です?」
「君には関係ないと言っただろう?」

 びくりと肩を跳ね上げた男の顔を覗き込むように少し上体を倒すと睨まれてしまった。あまりの分かりやすさに笑いが漏れてくる。その態度に不興を買っただろう、踵を返そうとする男に再び声を掛けた。

「お勧めはしませんね」
「…どういう意味だね?」
「うちの相棒、綺麗な顔してますけど…頑固でねぇ…すぐに足が出て超大変。」
「………」
「気に入らないことはすぐ能力で捩じ伏せようとするし。」
「…経験談か?…」
「いやいや、ご忠告ってやつです。」

 にこにこと笑みを絶やさずにお手上げポーズで茶化した。くっきりと眉間に皺を寄せた顔が更に不機嫌さを増していく。

「…この私に諦めろ、と?」
「いいえー?」
「…では何かね?」
「俺にしませんか?…なんてね?」
「……君に?」

 帽子を上げて前髪をさらりと掻き上げる。スキップでもしそうな足取りで近づくとその肩に手を乗せて内緒話でもするように凭れかかった。

「ま、相棒に比べりゃ見た目なんて、むっさいおっさんですけどね」
「……」
「…アッチの自信はありますよ?」

 流し目でちらりと視線を送ればぴくりと肩を跳ねさせた。駄目押し…とばかりにぺろりと舌舐め擦りをして見せれば、ヘの字を描いていた口がにやりと歪んでいく。

「(…堕ちたな…)」

 * * * * *

「あ。」
「んー?どうしたの?」

 撮れた映像のチェック中にケインが声を上げた。その素っ頓狂な声音にアニエスが首を傾げる。

「あ、いや…タイガーなら大丈夫か…」

 苦笑の中にどこか少し焦りの見えるその表情にバーナビーが顔を上げた。

「何がですか?」
「あの…ほら、今話してる人。」

 指差したのは虎徹のいる場所だ。こちらに背を向ける彼のすぐ傍にいるスーツの男のことを言っているらしい。見るからにエリートサラリーマンといった風体の男性だが…そんな男が虎徹となにやら親しげに話している。むかむかとした胸の内を表に出さずにバーナビーは首を傾げるだけに留まった。

「…どっかのスポンサー希望かしら?」
「あ、知らないんですね…」
「何が?」
「あの人、裏でちょっと有名なんですよ」
「…詳しく聞かせてもらえますか?」

 アニエスすら知らないことを知っているらしい口ぶりに突っ込んでみる。すると少し言いにくそうに眉を潜めると頬を掻いてひそひそと顰めた声で話し始めた。

「うん…その…企業の重役でさ…気になるヒーローに足開かせるっていう…」
「あしぃ??」
「で、更に気に入ったらスポンサー契約してくれるとか…」
「枕営業ってやつ?…ったくなんでそんな輩がここにいるのよ」

 ここにはブルーローズやドラゴンキッドはいないんだけどっ!…と鼻息荒く吐き出す彼女に、ケインは更に苦い表情を浮かべた。

「それが…あの人…男しか狙わないんですよ」
「はぁ?」
「女だとあとあと面倒だってんでしょね…妻もいるし問題になったら体裁が悪いだろうし」
「でも…だからってタイガーはないでしょ?」
「えぇ…だと思うんですけど…」

 二人してぎゅっと眉を潜める様にバーナビーは笑いを漏らしそうになった。男臭いオヤジというレッテルしか見ていない二人は知らないのだ…あの彼がふとした瞬間に魅せる表情を…喰らい付きたくなる衝動を抑えるのも近頃大変になってきている。
 それでも知っているのは自分だけでいい…とあえて何も言わずにいる。

「バーナビー狙いかしら?」
「それを阻止してるって思ってもみたんですけど…あ。」

 突然切れた声にバーナビーとアニエスは顔を見合わせる。二人の位置からだと様子を窺うには振り向かなくてはならない。ちらりとくらいなら気付かれはしないだろうけれど、振り返ったままとなると訝しげに思っている事をこちらが提示しているようなものだ。

「何かあった?ここからじゃ見えないのよ」
「あー…えと…名刺…かな?ベストの胸ポケットに…タイガーさんがこっちに来ます」

 しどろもどろになりながら説明していると、鼻歌交じりの足音が近づいてきた。

「うぃーっス。もう終わったのか?」
「あ、えと…」
「これから場所移して雑誌のコメント撮りするつもり」
「移動ってことね。了ー解」

 やけに機嫌の良さそうな声が怪しく思えてならないが、詮索するわけにもいかないだろう、とアニエスはなんでもないように話を切り上げる。そんな面々を視界に捕らえながらバーナビーはちらりと振り返った。するともう先ほどの男の姿はない。

「…今の人…」
「ん?あぁ、投資しようかって持ちかけてくれた人でさ。ほら、名刺。」

 ぽつりと溢した言葉に虎徹は胸ポケットから紙を取り出した。差し出されたソレをみると…確かに大企業の重役のようだ。長く重苦しい肩書きと名前が簡潔に記入されている。

「…やっぱり…」
「あ、知ってる?」
「え、まぁ…どっかで見たな…って事くらいで…」
「そっか」
「じゃ、移動しましょ。車で先導するから」
「はい」
「はいはーい」

 しゃきしゃきとしきっていくアニエスに皆は否もなく従っていった。
 バイクに跨ったバーナビーとサイドカーに腰を下ろした虎徹は微妙な沈黙の中、道を走っていた。

「…バニーちゃん?なんか機嫌悪くね?」
「…別に。」
「ほら、声のトーン低い。疲れてんだったら早めに切り上げさせてもらえよ?」
「…余計なお世話ですよ」
「またそんな可愛くない事言う…」

 ぷっと頬を膨らませて子供のように拗ねた表情をする横顔をちらりと見てバーナビーは唇を噛んだ。

「……おじさんは…」
「んー?」
「…なんでもありません」
「?そう?」

 何を言いたいのか分からなくなったバーナビーは口を閉ざすとそれきり話さなくなってしまった。
 * * * * *

 名刺とともに渡された小さなメモに書かれていた高級ホテル…一見普通のホテルであるが、要人御用達のラブホテルでもある事を虎徹は知っていた。ロビーで名前を告げれば、受付嬢は訝しげな表情一つせず、最上階へと案内してくれる。ふかふかの絨毯が敷かれた廊下を歩き辿り着いたのはホテルで一番のスイートだ。

「(…これまた…)」

 一礼をして去っていく受付嬢の背中を見送ってから目の前のドアノブを押し開いた。

「約束通りだね」

 ほの暗いルームランプに照らされた室内に、一人掛けのソファが見える。そこに座る男を見つけると、ゆったりした口調で話しかけられた。

「まぁね…相棒と違って暇なもんで」
「…その相棒君よりも君の方が優れている…という証拠を見せてもらおうか?」
「もちろんですよ…『ご主人様』」

 わざとらしく言葉を区切って強調すればにやりと唇が歪む。その反応に…上々…と笑みを深めてソファの前に膝まづく。

「何からしましょ?」
「何も考えていないのかね?」
「いいえ?ただ人によって趣向って違うじゃないですか」
「なるほど…一理あるな。では、脱いでもらおうか?」
「かしこまりました」
「ゆっくり…見せ付けるように、だ」

 にっこりと告げれば納得を示し、すぐに指示を出してきた。どうやらストリップがお好きらしい。
 ぽとり…と帽子を床に放り、ベストを落とす…ベルトを弛めてシャツを引きずり出したところで顔を上げた。

「何か残しておくものとか指示ってあります?」
「ふむ…下は全て脱いで…」
「はい」
「シャツは前を肌蹴ておけ…」

 人の嗜好は色々あるので一応聞いておく。いきなり素っ裸になると萎えると言われたことだってあったからだ。すると今度は細かに指示が出された。言われるままの格好になった虎徹は肌蹴たシャツの上に通したままのネクタイを一度解いて結び直した。

「…ネクタイはいらない」
「えぇ、でも…ご主人様…お手数をおかけしますが…」
「…何だ?」
「手、縛ってもらえますか?」
「何?」

 引っ張っても首が絞まらない結び方にした後に両端を摘み上げる。そうして首を傾げながら『オネダリ』をすると訝しげな顔をされた。その表情にくすりと笑みを漏らして肘掛に乗せた手を掬い上げる。甘えるように唇を摺り寄せてちらりと瞳を上げるとそっと呟いた。

「うっかり振り回して怪我させちゃうとマズイんで」
「よく気が回るじゃないか」
「そりゃ、いーっぱい経験してきましたから?」
「…いいだろう…」

 くすくすと笑うと気を悪くした風もなくネクタイを引かれた。途端にバランスを崩してソファに乗り上げてしまう。けれど下りろという指示もないので両手を揃えて差し出すと手際よく縛り上げていく。最後にぎりっとキツク絞められると摩擦に生じる痛みで顔を顰めてしまった。

「…なかなかいい貌をするな…」
「…光栄です…」

 結び終えた手がするりと顎を撫で上げる。その瞳に雄の光が宿った様に小さく荒い呼気を吐き出した。体を離すように押しのけられるのでソファから下りると、男は早々に前を寛げる。布の隙間から現れた黒光りした楔に何をしろ、と言うのか予測できた。開いた足の間に膝まづき顔を寄せると、男の瞳が細められる。その貌を上目遣いに見つめながら大きく口を開いて口の中へと迎え入れた。

 口に広がる青臭い味に眉を潜めながらも懸命に舌を動かす。表面をねっとり舐めては溢れる汁を、音を立てながらすすり上げる。徐々に荒くなる呼気を耳に捕らえながら頭を揺らして『奉仕』を繰り返した。

「…っ…言葉に…偽りはない、な…」
「…はふ…」

 満足気な声音に前髪を後ろへと撫で上げられる。貌を見えるようにだろう。さらさらと流れるストレートの髪を何度も掻き上げては褒めるように頭を撫でていった。正直のところ気が散るので邪魔ではあるが、男なりの褒め方なのだろうから勝手にさせておく。
 わざと手を使わずに口だけで出したり咥えたりと、見せ付けるように舐め上げる。音を立てるように…咥え込んでは煽るように上目遣いに見上げ…「愛しい」と口にする代わりに…ちゅ…ちゅ…と可愛い音を鳴らして口付けていった。舌先で表面をなぞると、浮き出る血管や反り返り具合からそろそろか…と頃合を計る。顔に掛けられるのはあまり好きではないので喉の奥まで頬張れば、射精を促すように吸い上げた。

「ッ…だす、ぞっ…」
「ッんぐ!!」

 どぷりと飛び出す欲望から、逃げられないよう頭を押さえられて口にぶちまけられる。喉を圧迫する苦しさに飲み込んでしまおう、と喉を動かそうとしたがそれよりも先に髪を掴みあげられた。

「…飲み込むな…」
「…んん…」

 顔を上げるように引かれて眉を顰めつつ見上げる。ぎらぎらと底光りを宿す瞳が見えた。

「口を開けて見せてみろ…」
「っふ…はぁ…」
「…そのまま垂らせ…」
「は…ぁ…」

 指示通りに舌の上に乗ったままの白濁を見せ付けるとにやりと笑みを深める。垂らすように…との事なので舌を突き出して滴り落ちる様を披露する。さらに唇の端から唾液と混じり首を伝い流れていった。髪を掴み上げられたままで反らすことの出来ない顔を男が満足げに鼻を膨らませて見つめている。あとは後ろでご奉仕すれば終わるはずだ。

「んぐっ…!」
「コレで後ろを解すんだ…しっかり濡らせ?」

 開けたままの顎がだるくなり始めると急に口の中へ2本の指を突っ込まれた。もう少しでえずきそうになるがどうにか耐える。目尻に涙が溜まってきたらしく視界がぼやけていた。

「は…ん、むぅ…」

 舌を押さえられて促されるので素直に頬張るよう、口を閉じた。歯を立てないように…と注意しながらリップ音を立てて舌を絡める。丁寧に嘗め回して指の隙間にも捩じり込ませて濡らしていった。あえて飲み込まずに濡らしている為に口の端から新たに唾液が伝い落ちていく。

「もういいぞ…」
「っは…」

 微かに掠れ、興奮に染まった声音に口を開くと銀糸を細く伸ばして指が出て行った。徐に立ち上がる男にベッドへ移動するのかと思えば顎をしゃくられる。

「そこに乗れ」
「…ん…」

 短い命令に小さく頷きソファへ乗り上げると背凭れに顎を乗せて四つん這いのようになってみせる。出来るだけ腰を突き出して相手の手を煩わせないようにと自分から差し出した。

「綺麗じゃないか」
「…はっ…とうぜん、でしょ…?」

 ぬるりと菊華に這わされた指にぞっと震える。割り切っているとはいえ、この瞬間はいつまで経っても慣れることなどない。ゆるり息を吐き出して出来るだけ力を抜いていると感触を確かめるように尻を撫で回してきた。

「…懸命だな…だが、まだまだ固い…」

 指を入れようとする動きに無意識の下、拒むように閉じてしまっていた。なんとか力を抜こうとしているのは見え見えらしく小さく嘲笑のような声が落ちてくる。

「…すみ…ません…」
「あぁ、怒っているわけではない。頑なな華を開かせるのも愉しいものだ」

 酷く興奮した様子を隠し切れない男に呆れたようなため息を溢してしまう。けれど乱れた呼気に紛れて気付かれずに済んだ。
 ボトルを開けるような音に、…あぁ、ローションも用意してあったんだ…と僅かな安心が湧きあがる。それとともにそろそろ入れられるか…と諦め半分、放棄半分の思考でゆったりと瞳を閉じると扉の開く音が聞こえた。


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