<緑のファーストコンタクト・3>


「ね?歩くのツライでしょ?運んであげるよ?」
「結構だ」

 あの後軽く始末をし、身支度を済ませた。ゼロは再度プロテクターなどを装着する為、ジノはずっと目隠しをしたままだった。とはいえ、うっすら見えていることがバレてしまった為後ろ向きを要求されたのはいうまでもないが。身支度を完全に済ませた二人が部屋を出る頃には、会場から姿を消してずいぶん時が経ってしまっていることに気付かされた。なにせ、カレンからのお怒りの電話が入ったからだ。「護るべき対象の人間がどこにいったか分からないのでは護れないじゃない!私に職務怠慢の烙印を押させるつもり!?」との事だ。職務怠慢云々はひとまず置いておくとして、心配をかけたには変わりない。戻った後何を言われるかと考えるだけでゼロは頭痛がするらしい、頭を抱えていた。
 そんな姿に小さく笑みを洩らし、ジノはゼロが思った以上に『可愛い』存在であることを認識する。

「そんな意地張らなくてもいいのにぃ…せめてもう少し歩く早さを落とそうよ」
「却下だ。カレンのあの剣幕からして少しでも早く戻らねば説教どころでは済まなくなる」
−説教以上のこと…となると?
「おぉ?百合的展開でお仕置きされちゃうのですかい?」

−ゴツッ

 音がしたと思い、ゼロを見やれば体が傾き、壁にぶつかっている。

「…どうすればそんな発想に辿り着くんだ…」
「いやぁ…目の保養になるだろうなぁ…と思って」

 くだらないことを話している内にホールの階段へと辿り着いた。下のホールでは各々が好きに話していたり、料理に手を出したりと、さっきここを出て行く時と変わりはない。その中でカレンがゼロに気付いたらしく、早足に近づいてくる。

「ほら、カレンてあの子でしょ?赤と黒のコントラストが映えて綺麗だと思うんだけどなぁ…」
「貴様の嗜好など興味はない」
「ん〜…でもさ。俺のやり方は気持ちよかったでしょ?」
「ッ!」

 耳元で囁かれた言葉に下りかけの階段を一段踏み外してしまった。あわや転がり落ちてしまうところをジノが片腕を掬い取り難を逃れた。仮面の下から睨み上げればにっこりとした笑顔を返される。

「あれ?今頃腰砕け?いやぁ…男としてそこまで感じてもらえるなんて冥利に尽きるなぁ♪」
「貴様…わざとか…」
「いやいや、まっさかぁ〜」
「その言葉がわざとらし…」
「あの…ゼロ?」

 顔を付き寄せひそひそ話しをしていた二人の近くまでカレンが駆けつけていた。そして二人を怪訝そうな顔つきで見つめている。ふと気付けば下で談笑していたはずの他の面々も興味津々とばかりに見上げていた。ばっとジノから腕を離させると、その鼻先にびしり、と指を突きつけた。

「金輪際、半径2m以内に近寄るな」
「ありゃ嫌われちゃいました?」
「カレン」
「は、はい!」
「もしこの輩が2m以内に入ってきたら手加減無用。蹴り倒せ。」
「了解…しまし…た…」

 警戒対象を示し、今後の要注意人物を挙げれば了解の意を伝えてきた。しかし、言葉がとても歯切れ悪い。そのことに首を傾げれば、何か思い当たったのか、カレンの顔色が青ざめていく。

「ぜ…ゼロ…まさか…」
「どうした?カレン」
「顔色真っ青だけど…大丈夫?」
「まさか…この男に食べられちゃったんですかー!?」

 まさかのカレンの大絶叫にどよめくホール内。ルルーシュの頭が真っ白になる。もう何をどうしたらいいものやら…このまま倒れて気を失えたらどんなに楽だろう…そんな考えを浮べてしまった。

「だだだだだだだから帰ってくるのが遅かったんだ…」
「いや、あの…カレン?」
「こんなことなら無理にでも着いていけばよかったぁ!!」

 大階段の中腹で悶絶しつつ後悔のどん底にいるらしいカレンにどう声をかけたらいいのか全く以って思いつかないでいる。とりあえずこの悪目立ちし過ぎる階段から降りた方がいい、との判断に至ったゼロはカレンの肩を押しつつ階段を下りていった。その後をにこやかな表情のままジノが続く。

「カレン…とりあえず落ち着け。そして自分の失言に気付け。」
「ふぇあ??」
「この私、ゼロ(男として通している人間)が、どこの誰(敵側の大男)に食われたって?」
「ッ!!!!!」

 ゼロの言葉の中に隠された()内の言葉に気付いたカレンが顔色を更になくしてしまった。ゼロ=(ルルーシュ)=女。ということを知っている人間はここにカレン以外いないのだ。なので先ほど叫んでしまった言葉。あれが他の人間が聞くとどう解釈されてしまうのか。

『男のジノが、男のゼロを相手に夜の営みをした』

 …ということになる。

「ほぉ、ナイトオブスリーはずいぶん守備範囲が広いんだね」
「…ジノって…両方いけたの…」
「いやぁ、最近の子は進んでるねぇ」
「ほら、言ったでしょう?英雄色を好むと」
「そのお言葉…あまり大声で言わない方がよろしいかと」

 情操教育に著しく悪影響を及ぼすであろう会話はシンクーの手によって天子の耳には届かなかった。

「すすすすすすすすすみませんっわたわたたわたしッ」
「あぁ、もう過ぎた事だ。それより落ち着け。深呼吸しろ。」

 背中を軽く叩いてやり、深呼吸を促す。このままでは混乱のあまり呼吸困難に陥ってしまいそうな雰囲気である。

「あと貴様はどこまで着いてくる?」

 ぎろりと視線を向ければまだジノがすぐそこにいた。半径2mと言っていたのにそれすらもお構い無しだ。

「え?だって手をつけた以上は責任とらなきゃいけないかなぁ…と思って」
「責任って…ジノ、まさかゼロと結婚でもする気?」

 少しでもゼロの中身が探れるかもしれない。とでも思ってか、ナイトオブセブン、もとい、スザクが近くまで来ていてさらりと爆弾発言を投下する。

「あぁ、結婚ねぇ…やっぱそれが妥当だよねぇ」

 ジノの言葉にカレンの肩がぴくりと動いたように思えた。

「やっぱこの場合ってお嫁においで?って言うべきかな?あ、違うか。お婿においで?」
「誰が行くか。それ以前に未遂だろう。枢木卿もおかしな発言はするな」
「あ、すいません…」

 ゼロの差し迫る気迫に押されつい謝ってしまうスザクであった。

「ま、焦らずじっくり落とさせて頂きますよ。道が険しければ険しいほど燃えるのが恋ってやつでしょ」
「戯言をほざくな」
「「こ、恋ッ!?」」

 さらっと飛び出た単語にカレンとスザクが同時に叫んだ。唖然とする二人の様子はそっくりで、あ、日本人はこんな驚き方をするのか、とか平和な考えがよぎる。

「こ…こい…恋って…ジノ??」
「ちゃーんと戦場で捕らえてから家に連れ帰って、目出度くゴールイ〜ン★ってね?あとはうちの家で悠々自適に過ごして頂く、と。まぁこんな感じで」
「それはある種の拉致監禁というやつだ」
「ん〜…とは言われても、俺、伴侶には家にいて欲しい派なんで」
「駄目ですわ〜ッ!!!!!」

 そんな埒の明かない会話を続けていると神楽耶が乱入してきた。ぽすっとゼロの背中から抱きつき、きっと挑戦的な吊り目でジノを睨みつける。

「ゼロの妻になるのは私なのです!勝手に婚約話などなさらないでください!」
「えぇ、まぁ、ゼロの妻はあなたでしょうね。けど…」

 言葉をわざとらしく切るとジノが徐にゼロをその腕の中に引き寄せた。次いで背筋をつぃっとなぞればゼロが小さい悲鳴と共にびくりと体を竦ませる。

「ゼロの『夫』となるのは俺なので」

 にんまりと挑発的な笑みに神楽耶はぐっと言葉を詰まらせた。どう収集を付けていいのか途方に暮れそうなゼロにスザクがどうにか出来ないものかと考えあぐねている。その横でゆらりとカレンが動き出した。

「え?おい、カレン?」

 その動きが不自然なことにゼロが慌てて呼び止めると肩越しにちらりと振り向いた。その表情を見た途端に寒気が走る。

「…紅蓮を…取りに行って参ります」
「「は?」」
「紅蓮を使って…その男の髪の毛一筋も残さず消し去ってくれましょう!!!」
「「はぁ!?」」
「そうすればゼロとの婚約が帳消しになる!!」
「婚約していない!」
「カレンさん!私もお手伝いしますわ!」
「ちょ、神楽耶、君??!」
「いざ参りましょう!」
「参りましょう!!!」

 うら若き乙女二人、一致団結して出口に向け全力疾走し始めた。それをゼロが腕を伸ばし止めようとするもジノにつかまったままではどうすることも出来ない。

「待てと言っているだろう!!」
「お?宣戦布告ってやつ?受けてたつよ」
「ジノものんきなこと言ってんじゃない!」
「枢木スザク!即刻二人を止めろ!でないとこの周辺が焼け野原になってしまいかねん!」
「イエス、マイロード!!」

 この瞬間におかしな主従関係が成り立ってしまったのだが、当人達はそれどころではなく、必死そのものだった。

−その後…
 いきり立つカレンと神楽耶をなんとか引きとめ、説得するのに軽く一時間は要したとか…
 何はともあれ、大惨事は逃れたので安堵のため息を零すゼロであった。

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