最近になって分かった事がある。
 蛮ちゃんが『俺』以外にも抱かれてるって事。
 そんなの許せるわけがなくて。蛮ちゃんが隠そうとしてても躯はとても素直だから隠せるわけが無い。なのに蛮ちゃんは……

 知らないフリをする。

「あ……ぅ……」
「無駄な事しない方がいいよ?蛮ちゃん」
「……っ……」
「卑弥呼ちゃんに作ってもらった香だから……逃げようなんて、無理」

 解毒剤を飲まない限りは、ね。

 その言葉は付けなかった。付けたら蛮ちゃんの事だから探そうと無理して、平気で躯に傷を付けるんだ。お仕置きが済むまで離してあげない……

 ここはどっかの廃屋。高層ビルに囲まれた小さなビルで、まるで回りのビルの高さに負けて滅んでいったように感じる。その周りよりもずっと低いビルの中。今俺達がいる所は天井が壊れているから、外にいるような錯覚を起こさせてる。今の蛮ちゃんにとってよく見える牢屋。見世物小屋、って言ってもいいのかな?
 蛮ちゃんの手は自由にするとろくな事がないから後ろ手に手錠をかけてある。いつもの蛮ちゃんなら簡単に壊しちゃえるんだろうけど……今は卑弥呼ちゃんの衰力香で力が入らない。

「……ぎん……っ……」

 衰力香を使った時蛮ちゃんが逃げようとしたから捕まえて、押し倒して、蛮ちゃんの中に自分を無理矢理捻じ込んだ。地面に伏せさせて腰だけ高く上げさせる。その体勢で後ろから貫けばそう簡単には逃げられない。
 肌蹴させたシャツの合間から胸の飾りを時々摘み上げ、中途半端に下ろさせたズボンが両足に絡み付いて足が開けない状態に……

「言い訳なんか聞きたくないから」
「……ぎんじ……」
「蛮ちゃんはただ俺の怒りを鎮めて……」
「んぅッ!」

 埋めたまま動かさなかった腰を乱暴に打ちつけ始めた。びくって仰け反る蛮ちゃんの背中。その背中の上で白い指がもっと白くなるほど握り締められてる。息を詰めて躯を襲う衝撃に耐えてるのが分かった。
 ……でも……
 蛮ちゃんの躯って正直だよね?こんな乱暴にされてるのに、ひくついて気持ち良さそうだよ?

「ぅ……っひ……ぁ……」
「気持ちよさそうだね、蛮ちゃん」
「違うっ……ぎ……っじ……」
「でも俺以外にもこうやって厭らしく腰振ったんでしょ?」
「……それ……は……」
「いいよ……もう……鳴き声だけ聞かせて」
「んあぁっ!」

 向かい合わせでは抱いてあげない。許しを請う瞳と、切なさに零れた涙を見るとすぐに許してあげちゃいそうになるから。
 ずぶずぶと奥深くまで突き刺しては引き抜いて、と繰り返せば蛮ちゃんの口から絶え間なく声が零れ落ちる。首を振って快感によって鳴き叫ぶ蛮ちゃんになんだか腹が立った。
 俺だけのものだと思っていたこの姿を、他の奴も知ってるって考えると、すっごく腹がたって、全然収まらなくて……この怒りを蛮ちゃんにぶつけるのは間違ってるのは分かってるけど矛先が分からないから。それ以前に蛮ちゃんが他の奴に躯を開いたのが許せなかった。

 始めは準備なしに入れたせいもあって必死に拒んでた。でもこうして腰を打ちつけてたらすぐに俺を迎えるように蠢き始めて……

「っあ……あぁッ……んっ……はぁっ……」

 蛮ちゃんの声の調子が変った。そろそろイくかな?内腿とかも振るえてきてるし、躯中痙攣してる。俺のをきつく締め付け始めてるし。

「ッ……やぁッ!」
「暴れないで……上手く付けられないから」
「やだッ!ぎんじッ……ヤめッ!!」

 蛮ちゃんの言葉を無視して俺はポケットに忍ばせてた輪ゴムを、今にも弾けそうな蛮ちゃん自身に巻きつけた。必死に逃げようとするけど、一番奥まで突き刺さってる俺のせいで上手くいかない。それをいい事に、さっさと付けてしまう。
 ……これでもうイく事もできない……

「……ぎんじぃ……」
「なに?蛮ちゃん」
「はずし……て……」
「どうして?この方が気持ちいいでしょ?」

 蛮ちゃんの躯が辛いって嘆いてるのは良く分かってる。だって、繋がった部分がきゅうきゅう締まってはひくひくってしてるんだもん。これって今にもイってしまいたいって言ってるんだよね。

 蛮ちゃんの上半身を起こさせて俺の膝の上に座るようした。

「ふあぁッ!!」
「っ……そんなに締めないでよ。イっちゃいそうになるじゃん」
「あ……ぁ……っぁ……」
「自分の体重で余計に深く刺さってるんだよね?イイんだ?そんなに震えるくらい、感じちゃってるんだ?」

 背筋は仰け反ったまま、俺の肩に凭れかかってきてる。浅い呼吸と躯が小刻みに震えてるのを感じられる……愛しい、俺だけのもの……
 両太腿の裏に手を這わせて脱ぎかけのズボンを抜き取ってしまう。ねっとりと撫でながら時折足を揺すりながら、足を揺すって躯を揺らさせれば「今にもイってしまいそう」って感じの嬌声が聞けた。

「ほら……蛮ちゃん……動いて……」

 耳元に直接言葉を吹き込んだら、蛮ちゃんが嫌々って言うように頭を横に振った。そんなことしても状況は変らないのにね?

「じゃあ……このままでいようか」
「ッ……や!」
「嫌?じゃあ言う事聞いて自分で腰振って?」
「ぁ……ぁ……」

 蛮ちゃんが渋々行動を開始する。震える足で踏ん張って一生懸命躯を揺すって、ぐちゅっていう厭らしい音をいっぱい立ててる。
 顔見えないのってやっぱり嫌かもしんない……
 だって蛮ちゃんの表情が見れないんだもん。

「……蛮ちゃん……もっと激しく動かないとイけないよ?」
「ぅ……う……っ……く……」
「……しょうがないな……手伝ってあげる」
「!あッ……ひぁあッ!」

 さっきまで手放し状態だった蛮ちゃんの腰を鷲掴んで思い切り上下に揺さ振った。俺のが全部入るくらい深く突き刺しては抜けるぎりぎりまで引き抜いて、突き刺す度に入れる角度を変えたりする。そうすればもっと溺れてくれる。

 ……もっと……もっと……

 蛮ちゃんを求めてるのは俺のはずなのに、まるで蛮ちゃんが俺を欲しくてお仕置きされてるみたいに思えてきた。

「ぎんッ!ぎんじぃ!!」
「……っは……」
「もッやだ!イかせ、てッ!」

 必死に首を振って訴えてくる蛮ちゃん。声を聞かなくても『素直な下のお口』が教えてくれてるよ?
 蛮ちゃんが言葉に出すよりも前からずっと……
 『早くイかせて欲しい……早く……』って……

「っ……どうしてほしい?」
「あッんぅ!」

 律動は続けられたまま、蛮ちゃんを揺さ振って犯して、鳴かせたまま。後ろ手に繋いだ手錠ががちゃがちゃ耳障りな音をたてさせたまま。
 俺は意地悪な質問をした。いつもの蛮ちゃんなら絶対応えないような質問。応えないかもしれないって分かってても今日は聞かないわけにはいかない。誰にこうされたいのか、口にだしてちゃんと言わせたかったからさ。

「ね、蛮ちゃん?ココ、どうして欲しい??」
「っあ!ぎんっ……」
「早く言わないともっと酷い事しちゃうよ?」
「ヤ……やぁッ……」
「なら早く言いなよ…蛮ちゃん」
「あ……ぁあッ……ぎ……じ……」
「なに?」
「……あ……ぎんじの……一杯……注いで……」
「そんなに欲しい?」
「ん……」

 首を縦に振って懸命に応えてくれた。蛮ちゃんにこんな言葉を言わせられた事で少しは気が晴れたのかもしれない。
 蛮ちゃんを戒める輪ゴムを解き、代わりに自分の手で戒めた。……まだ、だめ……

「……ぎん……ッ……」
「まだ……俺がイったらイかせてあげる……」
「あぁぅッ!」

 足首を掴んで躯を反転させる。裾が長い白のシャツが足の間に絡まって繋がったところを中途半端に隠してた。思い切り左右に開かせたせいか蛮ちゃんの頬がいつもより紅く染まってる気がする。快感に滲んだ瞳も酸素を得る為に微かに開かれた唇も、俺を煽って仕方が無い。

「あぁッ!っあぁあ!!」

 蛮ちゃんは意識してないだろうその痴態っぷりに俺の理性はもたなかった。蛮ちゃんのを握り締めたまま、顔がつくほどに上体を屈めて奥深くを抉るように突き動かす。
 俺がまだ怒ったままだって証拠に抱き締めはせず、蛮ちゃんの横に手をついて自由にかき回した。
 蛮ちゃんの足が宙を蹴ってる。

「ぃあッ!ぁう……んッ!ゃあ!」

 目の前で鳴き叫ぶその表情が厭らしくて…蜜を溢れさせている蛮ちゃんを強弱をつけて揉み込めば、蜜の量が増えた。

「ゃ……イかせてッ!……も……ヤだッ」

 涙を溢れさせながら蛮ちゃんが必死に訴えてきた。俺の手の中のモノは時折ぴくっって痙攣をしてその度にイけないもどかしさに震えてる。
 でも……そろそろ俺も限界。
 蛮ちゃんが一番よがる所をピンポイントで狙い、自身を打ち付け続けた。それに応じるように蛮ちゃんの締め付けもキツクなってくる。

「ぅあッ……あぁぁぁッ!」
「ッ……く……」

 * * * * *

「……ったく……むちゃくちゃしやがって……」

 そう呟いて手首を擦った。まだ少し血が滲んでるけど痛くはない。
 俺が気絶してしまったのだと思って銀次が舐めたから……
 ふと視線を落とせば俺の膝に頭を乗せ、俺の腰を抱き枕にした銀次の寝顔が見える。
 そういう中途半端なとこが鬼畜になりきれてねぇんだよ。

「……癖になったらどうすんだっての……」

 怒りの中に隠そうとする優しさ、愛しさ。独占する為に躯に刻まれる印。激しいまでの快楽。わざと乱暴にして自分に繋ぎとめようとする執着心。その全てが心地良くてたまんねぇ。

― 一人ぶらぶらと町を歩いててふと目が合ったのは茶髪に金のメッシュを入れた男。冷めた瞳と体に纏った独特のオーラは懐かしいものを思い出させた。

―瓦礫の上で出会った金色の獣。

 何かの磁石でも持っているかのようなそいつから目を離せなくて、気付けば目と鼻の先にまで近寄ってきてた。
 引き寄せられる引力に抗う事は許されず、そいつに手を引かれ、導かれるがままについて行った。

 聞けば大切な奴と離れてしまってもう長い間探しているらしい。
 もちろんその探してる相手は俺じゃない。ただ雰囲気が似ているだけ。それでもそいつは……

 俺を抱きたいと言ってきた。

 相手の事はいいのか?と問えば躯だけの行為でいいと言う。
 心の乾きに耐えられない、と。
 その乾きを少しでもマシにしたい、と。
 ただ……一回だけではなく、この町に滞在する間、乾きに絶えられなくなったらその度に逢瀬を交わしたい、と。
 救いを求め、だが決して救われないと分かっていて向けてくるその瞳に、断るはずの俺の言葉は受諾のものへとすり返られてしまった。

―……はっ……この俺様が同情か……

 そいつはその都度金を払うと言ってきたが、受け取りゃそれこそ売春じゃねぇか、んなもんお断りだ。

 その日から秘密の逢瀬は週に2・3度あった。割り切ってたせいか、気持ち悪くもない。……いや、気持ち悪くないのはあいつが金色の獣に似てたからだ。
 くらくらする意識の中で更に重なって見える。寂しさと小さな絶望を映した瞳は印象に残ったけど……

―遠くを眺めていた目を再び膝元へと移す。そこにはあいも変らず規則正しい呼吸を繰り返す銀次がいた。

 眉間に皺が寄っているのに気付いて、伸ばさせようと擦りつける。すると「邪魔だ」とばかりに手を振り払われた。仕方がないので髪をふわふわと撫でると表情が和らいでいく。



―無償でするってのもちょいと癪に障ったが、そんなことよりも銀次への罪悪感の方が強かった。その感情に押されてか。俺は柄にもなく依頼なしに人探しを始める。
 人物像は聞かずとも、俺に似た奴なら行きそうなとこも、考えそうな事も何とはなしに分かってしまう。
 ……その事が滑稽に思えたけど……

 探し始めて数日。片手で数える程の日数しか経ってはいなかったのに相手はあっさりと見つかった。『探し物』が下手なとこまでそっくりだ。

 一先ず素直じゃなさそうな相手だ。だったら……
 挑発をして突き動かす。
 首に残る所有の印を見せ付けてやればいとも簡単に動いてくれた。あいつの場所を聞いて、肩を怒らせながら歩いていってしまった。
 ……んなとこが自分に似てんのもなんだかな。
 っつーかこの所有の印は銀次のもんだし。
 まぁ、殴られるだろうが、それはお駄賃って事で……

「まいどあり……」

 誰もいなくなった空間でぽつりと呟いた。

 さてと……もう一仕事残ってんな。
 理由がどうであろうと銀次をはぶっちまったわけだからな。
 お仕置きだろうがなんだろうが……甘んじて受けてやるよ。―

「……なぁ……銀次……やっぱ俺の躯って素直だわ」

 あいつに抱かれてる間、銀次のことしか頭になかった。いつもなら満たされる行為が全く満たされない。相手が違うだけで全然違うものになってしまうんだ。

 その証拠に……
 銀次の腕の中で狂いそうになった
 全てが真っ白になっていくのも分かった
 満たされて……溺れて……
 銀次なしでは生きられないと自覚させられた

―この腕でしか抱かれたくない―

 そんな女々しい考えまで浮かんでた。
 この腕に。こんなに激しく、深く愛されているのだと教え込まれる事がここまで満たされる事だなんて知らなかった。

「……たまにゃ浮気も悪くねぇな……」
「……まだ誰かの所に行くの?」

 返事なんか返ってくるはずのない独り言に返事が返ってきた。驚いて下を見れば銀次が見上げてきてる。焦燥に駆られた瞳から目が離せない。
 首に腕を回されて引き寄せられた。そのまま唇を奪われて呼吸さえも奪い尽くされる。

「キスしただけでこんなになっちゃうんだ。厭らしい躯になったね?」
「……そんな躯にしたのはどこのどいつだと思ってんだ」
「でも俺だけじゃ物足りないんでしょ?だから他の奴のとこ行くんでしょ?」

 すぅっと細められた瞳にぞくぞくしてきた。……重症だな、俺も……

「……あぁ……そうだな、お前だけじゃ足りねぇな」
「……今から行くんだ……そんなの許さないから」

 銀次は気付いてないんだろうな?この言葉が演技だって事。

「だったら足腰立たねぇくらいしてみろよ。ま、お前にそれが出来るかどうか知らねぇけどな」

 いつもの銀次なら気付くだろ。
 わざと銀次を『お前』って呼んでる事に。
 でも気付かないって事はそれほど焦ってんのか……

「後悔するよ……蛮ちゃん」
「させてみろ」
「覚悟してね……」

 躯を他の奴に開いたのは真実。
 でも銀次は俺の心まで他の奴に持っていかれたと思ってる。
 ………んな事あるわけねぇのにな?

 まだ……教えてやんねぇ……
 せめてこの行為が終わるまでは……
 もっと俺を……満たしてくれよ……銀次……



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