死の運命を背負って生まれ……

化け物と、悪魔の子と言われ続けた俺

……そんな俺が今まで……

どれほど多くの事を願っても

どれほど小さな事を願っても

何一つ叶う事はなかった


……でも……

……もし……

もし神なんてのがいるんなら

諦めきった願いを……

醜悪とさえ受け取れる願いを……

叶えてくれるんだろうか?



たった一つだけ……願いを叶えられるなら……

諦めきれない願いを

たった一つの願いを

叶えて欲しい


初めて自分を犠牲にしてでも、欲しいと……手に入れたいと思った

……一人の男……

何故か?

と、問うのも億劫に感じるほど、ただ……欲しい……

それだけ……

 * * * * *

 吐く息の熱さに目眩を感じていると頬に手が触れてくる。閉じた瞼の上に柔らかな感触を感じ瞳を開けると琥珀の瞳が見える。頬に手が添えられたまま、覗き込む瞳は雄の色を濃く滲ませていた。

「……蛮ちゃん」

 鼓膜を響かせる優しい音。どこか気遣わしげなその声に淡く微笑んだ。
 汗の滲む額にかかった前髪をすいてやって、上気した頬にキスをする。そのまま首に腕を回して引き寄せれば、僅かに空いていた二人の空間を容易く消してしまえる。

「ねぇ……蛮ちゃん?」
「んー?」

 呼びかけに止まることもなく、頬から目元、鼻、額へとキスを与えていると腰に腕を回された。

「今何考えてた?」
「……なんだよ?急に」

 もう片方の手で首の後ろを掴まれると仰け反らされ、露わになった喉に口づけを落とされる。

 喉に唇を這わせながら質問をしてきた。冷えた首にかかる熱い息。
 行為の最中に交わす言葉はいつも決まったもの。けどいつもと違う事を聞かれて俺は少なからず驚いた。野生の勘が鋭いというか……こいつはいつも俺が何か考えているとこうして声をかけてくる。
「今何か考えてたでしょ?」
「別に何も……」
「嘘」

 即座に返される否定の言葉はどこか苛立ちを含んだもので。棘の付いたその言葉にすら喜びを感じる自分が滑稽に思える。

「つっ……いってーな」
「俺以外の事考えてたからおしおき」

 とぼける俺の喉に歯を立てると強く吸い付いて痕を残した。わざと痛みを感じる程の強さで…

―……心地良い……

 ふとそう感じる。今まで感じた事のない感覚が俺を包み込む。
 独占される事。自分を求められる事。誰かに必要とされる事。
 俺の『力』ではなく『俺自身』を必要とされる。邪馬人やエリスの時とはどこか違う。銀次だから感じられる感覚。

「教えてよ」

 俺の胸元に埋めていた顔を上げ上目遣いに見つめてくる銀次の瞳を見つめ返して、俺はまた少し考えた。数秒と経たずに薄く笑みを浮かべる。

「……言っていいのか?」
「え?俺が原因の考え事?」
「まぁな」
「うーん……」

 まぁあながち嘘でもない返事を返すと銀次はいつものように小さい脳みそで色々考え始めたらしい。顔の表情がたれる一歩手前だ。

「……一応聞いてみる」

 少しびくついた表情で意を決したように聞いてくる。
 あぁーあ、無理しちゃってまぁ……顔に『聞きたくありません』って書いてあんぞ?

「銀次の……」
「う、うん……」
「ヤり方に飽きた」
「!!!!!」

 どうやらかなりショックを受けたみてぇだな。一気に縮んだ上に白くなってやがる。しばらくそのまま放心状態に陥って、指折りしながら何か数え始めやがった。

「っ……くく……」
「……蛮……ちゃん?」

   堪え切れずに笑い声を漏らすと銀次の今にも泣きそうな声が聞こえてくる。
 これが耐えられるかっての……
 なーんでこいつってこうも考えてる事が解りやすいんだろうな?今絶対ヤってる過程を想像してやがる。しかも指折りをしてたって事は思い当たる節があるってことか?
 ったくもっと自信持てっての。俺の性格からして飽きたら飽きたで『どうにかしたら相手してやる』とか言うに決まってんだろが。

 本当にこいつって簡単に振り回されてくれるよな。俺が想像した以上に……

「蛮ちゃん!嘘ついたでしょ!」

 まだ笑いのおさまらない俺の体を腕の中へ閉じ込めるように銀次が乗ってくる。俺への負担が軽く済むように全体重を乗せては来ないけど……こういうところに銀次の気遣いを感じられる。

「まったく嘘ってわけでもねぇよ」

 愛しい存在。尊い存在。手放したくない存在。
 でもいつかはこの手を、この腕を振り払わなくてはならない時がくるのだろう
 いつか……そう遠くはない、その時……
 その時まで……

「ただ……」
「ただ?」

 銀次の顔が不意に近づき額同士が摺り寄せられる。被さってきた体に腕を回すと、腰へと腕が回された。瞬きをする度に映る琥珀色の瞳。

 その瞳を見る度に……いつも思う事がある。

「……………」
「蛮ちゃん?」

”出来る限りの長い時間をこいつと一緒に過ごしていたい”

「銀次」
「うん?」

 醜かろうと……浅はかであろうと……
 今の俺にとってはそれが全て。

「温めてくれよ」
「えっ?」
「寒いから、さ」

 そう、寒いから。手放したらきっと……ずっと寒いから……
 今はまだ……その寒さを感じたくはない。

「……いいよ。でも」
「ん?」
「覚悟してね」


こんなに傍にいるのだから
一つに重なれるほど、傍にいるから

手に入れられるなんて思っていない

俺は悪魔の子だから

何を望んでも……願っても……

何一つ叶うはずがないのだから

それでも……

もし……神なんてのがいるのなら……

この願いを束の間だけ



……叶えて……



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