―映画

―1―

「蛮ちゃん!蛮ちゃん!!」
「あ?」
「今日ね!夏実ちゃんに映画の話を聞いたんだ♥」
「ほぉ……で?気に入ったのか?」
「うん!すっごく!あのね……」

―それはこんな話だったんだ。


 昔々……
 とある国に王子様が住んでいました。
 その王子様は決して誰にも心を開きません。誰に対しても冷たく、何にも興味を持ちませんでした。
 ある日……王子の住むお城に一人の老婆が訪ねてきました。その老婆はこう言います。

「この一輪のバラをあなたに差し上げます
 その代わりに私をお城に一晩泊めさせてはもらえませんか?」

 そう言って老婆は一輪の美しいバラを差し出しました。しかし王子はその申し出を断ったのです。人に関わり合いたくもなければ、そのバラが美しく価値あるものだとも思えないと言い追い返してしまいました。
 老婆を城門の所まで追い返すと、突然光が溢れ出しました。腰の曲がった老婆を包み込み光が薄れると、そこには艶やかな黒髪の美しい女性が立っていたのです。
 女性は言いました。

「あなたの心は冷たい氷に閉ざされていますね
 それ故にあなたは老婆への慈悲もなく
 この美しいバラにさえも心を動かしませんでした」

 女性は再びバラを差し出しました。

「私はあなたに呪いをかけましょう」

 すると今度はバラが光り始めます。紅い光が溢れ、王子を捕えます。

「王冠の代わりに醜くひしゃげた角を
 白い手袋の代わりに岩をも崩す鋭い爪を
 毛皮のマントの代わりに風を裂く黒い翼を
 柔らかな息を吐く口に全てを拒絶する牙を
 温かさを感じる肌には冷たき鱗を」

 女性が言葉を口にする度に王子の体は次々に変化をしていきました。すべてが女性の言葉通り、醜い形へと変わっていくのです。その変貌に王子は愕然とします。もはや人ではなくなってしまったのですから……
 王子は聞きました。

「私は一生このままなのでしょうか?」

 と。女性は答えます。

「このバラをこの城の中庭へ植えましょう
 そうすればこのバラは多くの花を付けて咲き誇る
 バラの木となります
 呪いを解くにはこのバラの花が全て散ってしまう前に
 あなたの心が溶かされればよいのです」

 そう言うとバラは再び光りました。あまりの輝きに王子は目が眩み、気付いた時には女性の姿はどこにもありません。
 それどころか、城にも変化が及んでいました。白く輝いていた城が、黒く、灰色に満ちた城塞へと変貌していたのです。月と星が煌いていた夜空も暗く重い雲が覆い隠してしまいました。王子と共に生活をしていた城の住人達ですら変わり果ててしまったのでした。
 王子は悲しみに暮れ、今尚その醜き姿で時を過ごしているのです。―


「まぁたその話をしてんのか?」

 ここはとある村の外れ……庭にある木の下で女性が少女に話を聞かせていました。それは習慣であり、目の見えない少女にしてやる事の中で一番喜ばれることでした。
 その女性は黒い肌に豊満な体の持ち主で町一番の占い師でもあります。
 名前はマリーア=ノーチェス。
 彼女の傍らに座るのは真っ直ぐな黒髪で小柄な少女。ヴァイオリンを弾けば自然と動物達さえも集まってくる腕の持ち主。
 その少女の名は音羽マドカ。
 その傍らに立っているのは彼女達と共に暮らしている男。
 色白の肌に漆黒の四方に跳ねさせた髪…常にかけているサングラスが特徴のラインが細い人物。
 彼の名は美堂蛮。
 彼ら三人は同じ家に住むだけといった間柄です。

「……この設定……無理があるだろ……」
「あん、駄目よ?蛮。そんな事言っちゃ」
「話が進まなくなるってか……」
「さ……マドカちゃん」
「あ……はい……えと……
 おはようございます、あなた」
「……………」
「……………」
「……………あれ?」
「誰だー!?嬢ちゃんに余計な事吹き込んだ奴ぁ!」
「はいなー?なんか呼びましたぁ?」
「てめぇの仕業か……」
「いい度胸してんな?笑師」
「あれ?士度はん。もう来はったん?」
「覚悟は出来てんだろな?」
「いややなー、ちょっとしたお茶目ですやん」
「あ、あの……信じてしまった私がいけないんです。だからっ……」
「ほらぁ……マドカちゃんもあぁ言ぅてる事やし……」
「マドカは悪くない。悪いのは笑師なんだからな」
「おー猿回し。さっさと終わらせよー?」
「分かってる……百獣擬態……」
「えぇー?!技付きでっかー??!!」
「あらあら……大変 」
「た……たすけてー!!」
―バシュゥッ










―しばらくお待ちください―










「さてと……んじゃ……仕切りなおして」
「あ……はい!
 え……と……おはようございます!」
「おぅ」
「あら?『おはよう』は?」
「んなもん言えるか」
「もう……恥ずかしがり屋さん♥」
「うっせー」
「え……と……今日はどこまで行くんですか?」
「そうだな……天気もいい事だし。森の方まで出てもいいかもな」

 そう言って視線を投げかけた先には鬱葱と生い茂る森がありました。いつもは濃い霧のかかるその森ですが…今日はその霧も薄く、いつもよりは明るく見えます。

「そう……森に行くの……」
「……なんだよ?」
「いいえ。そうね……お土産にバラの花を探してくれる?」
「バラねぇ……」
「バラって綺麗なんですか?」
「えぇ、とても。いい香りもするわ」
「へいへい……あったらな」

 そう言って手をひらひらと振ると森へ入る為、町へと降りて行きました。

「……見つけたぞ……美堂……」
「……はぁ?」
「今日こそ狩ってやる……」
「ちょっ……」

 彼に声をかけたのは町一番の狩人、不動琢磨。彼が今狩る事に夢中になっているのは……何を隠そう、美堂蛮なのです。一筋縄ではいかない事と今まで彼が仕留められない者は何もなかったという自信から、蛮が町へ来てはその度付け狙うのでした。

「俺の欲が……欲が疼くんだよおぉぉぉ!」
「んなもん知った事か!」
「逃げるな!美堂ぉぉぉ!!」
「うっせー!お前なんかに構ってられるか!」

 不動の爪を僅かに避けつつ蛮は森へと急ぎました。森の中ならば隠れる場所もあるし逃げる事も容易くなるからです。鬱葱と生い茂る森その奥へと逃げ込む蛮。
それはこれから起こる物語の始まりになるのです。

―続く


収録後―

B:なーんであいつがいるんだよ!余計な体力使っちまったじゃねぇか!
G:……いいなぁ……蛮ちゃんと鬼ごっこ……
B:……なんでそうなる……
M:あら……でも本当に楽しそうに見えたのよ?
B:んなわけあるか!もっとマシな人選しろよな
N:その人選で落とされたんだ
B:ぅわっ!いたのかよ!?
G:来てたんですか!
N:我々弥勒兄弟ではインパクトに欠けるそうだ
G:……インパクト……
B:インパクトねぇ……お前らでも十分じゃねぇのか?
K:でしょ??私達の何がいけないってのよ
U:まったくだぜぇ!何が不満なんだぁ?あぁ?
To:我々があやつより弱いとでも言うのか……
Tu:それとも何か?台詞が言えないとか思ってんのか?
H:もし……そうだとしたら不愉快だ……
Y:そうだね……僕らを彼と一緒にしてほしくはないな……
G:ねぇ……蛮ちゃん……もしかしてこれが原因なんじゃないのかな?
B:言うなよ……銀次
M:ところであの二人はどうしたのかしら?
GB:あの二人?
M:士度くんと笑師くん
G:……あぁ……そういえば……どこ行っちゃったんだろ?
B:さぁな……さっき嬢ちゃんが止めに行ってたけど
G:大丈夫……だよね?
B:……大丈夫だろ

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