※時期としては2期
※ニールは生還してます


正面、上45度…右に80度…左へ140度旋回…カウントダウン開始…3…2…1…

『ミッションクリア!クリア!』
「…ふぅ…」
『ロックオン、オ疲レ!オ疲レ!』
「あぁ、さーんきゅ、ハロ。」

大きく息を吐き出すと懐かしい相棒と同じ労いの言葉をかけられた。今まで握り締めていたライフルを引き上げ操縦桿を握り直す。

「こちらデュナメスR2。ミッションクリアにつきこれより帰還する。」
『こちらトレミー2。了解しました。無事に帰ってきてください。』
「りょーかい。」

 * * * * *

生還後、初のミッションは単独のものだった。こちらの母艦を探し回っている小隊を遠距離射撃で撃ち落とす単純なもの。ライルでも可能だったが、地上へ物資支給の護衛に出ていて、実戦復帰の意味を込めてニールに白羽の矢が立った。それに関して依存はない。戦線復帰を本格的にする上でもいいウォーミングアップになる。
…しかし…

「…あと半日か…」

トレミーへと軌道を向けながらポツリと囁く。

―ここからトレミーまで戻って…パイスーから着替えて…

脳内でこれからの予定を組み立てると戦闘中に振り切っていたテンションゲージも、一瞬にしてしおれてしまう。思わずため息をついてしまえば、操縦桿の横に鎮座する水色のハロが目をチカチカと明滅させた。

『ドウシタ?ドウシタ?』
「ん?あぁ、なんでもないさ。」

誤魔化し笑いを顔に張り付けその丸いフォルムを一撫ですれば嬉しいのか耳をパタパタと動かす。視線を正面に戻し、少しでも早く戻ろうと操縦桿を握る手を強めた。

「お帰り、兄さん。」
『ロックオン、オカエリ!オカエリ!』
「おぅ、ただいま。」

水色のハロを小脇に抱えて降りていけば、オレンジのハロを抱えた同じ顔が出迎えてくれた。パイロットスーツを着ているところから考えるに彼も今帰ってきたところだろう。

「腕は鈍ってなかったようで。」
「まぁな。戦闘離脱してた、っつっても年単位じゃねぇし。」
「にしたってさ。ミススメラギが感心してたぜ?予想を上回る早さだって。」
「あぁ〜…それは…なぁ?」

言葉を濁せば不思議がられたが、それも一瞬の事だった。理由に思い当たったのだろう、苦笑混じりに視線が流れていく。

「この歳になって…とか言うなよ?」
「言わねぇけどさ…」

2人して脳裏に描く人物は同じだった。
黒髪に蜂蜜色の肌をした青年。ニールがいない間にマイスターのリーダーとしての役割をまっとうしていて、それは現在進行形で担っていたりする。4年前より感情表現が豊かになったせいかニールがメロメロな相手だ。とはいえ、それはニールだけには留まらなかった。双子の因果なのだろうか?…お姉さんタイプがストライクのライルも虜になっている。彼自身はニールもライルも『ロックオン』であってどちらがどちらよりも好き、という観念はないと断言していた。なのでディランディ兄弟の間で協議が交わされ、『2人で共有』という形で決着が着いていた。
この点は当事者間で満場一致の事項なので特に問題ではない。
問題なのは…今日の日付。…3月3日…

「……んー…4年前は戦いの真っ最中だったからなぁ…」
「…刹那が何かしてくれると思う?」
「それは…どうだろうな…」

4年前の今頃は激戦真っ只中だったはずだ。それゆえにニールの脳裏に『恋人』の刹那からそれらしい祝いやイベントといった事をした覚えもない。
そしてなんと言っても…『恋人同士の過ごし方』に関してクールの上にドライを備えた『あの』刹那だ。

「やっぱ…三十路になってそんな甘っちょろい事望むなって事かねぇ…」
「いやぁ?好きなやつとあれこれしたいって願望はいくつになっても持つもんじゃね?」
「…そう思ってんの…俺とお前だけだったらどうする?」
「…うぐ…」

今話し合っているのは双子である彼らのみ。この意見が世界共通かと問われると痛いところがある。思わず息を詰めてしまったライルにニールは乾いた笑みを浮かべた。

「祝ってくれなくてもいいから…せめて一緒にはいたいよな…」
「…だよな…」
「なんたって『あの』刹那だし。」
「うん。『あの』刹那だもんね。」

がっくりと肩を落とした双子は肩を並べてよろよろと更衣室へと向かうのだった。

 * * * * *

「………」
「………」
「……兄さん?」
「……うん?」
「『これ』は何だと思う?」
「…何…だろうな?」

とりあえず着替えて愛しの人のもとへ!と更衣室へ入ってきた2人の目の前には異様な光景が広がっている。ロッカーが並ぶ更衣室の真ん中にはソファが設置されているのだが…その上が常には有り得ないことになっていた。
3月3日…ディランディ兄弟の誕生日である事を分かっているトレミークルーから2人への誕生日プレゼントが積まれている。皆各々の任務や作業で手が離せないのだろう、直接渡せない事を代表でペンを走らせたスメラギのメモで知らせてくれていた。きちんと2つの山に分けて2人分の山が出来ているのだが…問題はそれではなく…

「…なんで…真ん中に刹那?」
「しかも…俺らのジャケット…?」

山と山の間に出来たスペースに刹那が居た。…居た、というか…眠っている。このところ出撃続きだった事は明白なので疲れて眠ってしまったのだろう。けれど、その丸く丸めた体には二種類のグリーンを使い分けたジャケットが掛かっていてとても気持ち良さそうに寝息を立てている。

−ぴろぴろ〜ん
「……何やってんの…」
「や、こんな可愛い姿写メっとかないともったいないな、と。」

あまりの混乱に自らも混乱しているのだろう、ニールがうっかりと言わんばかりに端末を握りあわあわしている。「あとで俺にも頂戴。」としっかり催促を入れたライルが刹那の後ろ側のソファに白い箱を見つける。

「…この箱はなんだろ?」
「うん?」
「メッセージカードが見当たらないんだけど。」
「んー?…開けてみる?」
「え!?いいの?」
「だって一つしかないし、開けないと何だか分からねぇ。」
「…そりゃそうだけど…」

刹那を起こさないようにとそろりそろりと移動したニールがぱかりと蓋を持ち上げた。中にはこんがりと綺麗な狐色をしたパイがホールで納められている。

「…ケーキ?」
「ッ〜〜〜〜〜〜!」
「?どうしたの、兄さん?」
「やべぇ…俺、泣きそう…」
「ちょ…一人で感動してないでどういう訳か説明してよ。」
「お前さ…このパイ見覚えない?」
「…パイ??」

どこまで感動しているのか涙を浮かべながら促されるものだからまじまじと睨めっこしてみる。
しかしそれはさほど長い時間を要さなかった。

「…アップル・パイ?」
「そ。しかもご丁寧にペイストリー生地を使用してのパイ。」
「……もしかしなくとも…」
「刹那の手作りだな。」

自分達の出身国などとっくにばれているわけで…刹那の料理の腕もニールがよく知っている。カードが付いていなかった事と一つしかない事からこの推測は間違いではないだろう。ここ数日の多忙なミッションの中、故郷のケーキを調べこの日に合わせて焼いてくれた恋人に、顔を見合わせた2人は自然と笑みが浮かんでくる。

「自分の好きなりんごを使ってるって事は『一緒に食べよう』って事かね?」
「あ〜…かもしれねぇな。刹那って甘いもん好きだし。」
「まさかこんなプレゼントを用意してくれてるとはな。」
「最高だよ、全く。」

日付が変わるまで残り僅か…刹那が起きるまでにケーキを切り分けるナイフやシャンペンを用意してすぐにでも食べられるように、とニールとライルが手分けして準備を進める。
そうして今は眠る可愛い恋人が目覚めるのをひたすら待つのだった。


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おめでとう!ディランディーズ!!
なんとか間に合ったよぉー!!←


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