「あれ?もういいの?」
「うん?」

 愛しい恋人を待ちながら食堂で遅くなった夕食をつついているとパイロットスーツを着たライルが話しかけてきた。なんの話をしているんだ?と首を傾げるとにやけた顔で近付いてくる。

「刹那にしこたま絞られたらしいじゃん。」
「ッげほ!?」

 耳元でぽそりと告げられた言葉に思わず吹き出してしまう。何を言われたか分からない他の面々は訝しげな表情を浮かべ振り返っていた。

「な……なに、言って……」
「かーなり淫乱だったんだろ?あの刹那が。」

 隣の席に腰を下ろして肩へ腕を回してくるライルにニールは慌てふためいた表情を上げる。そんな兄の姿を実に楽しげに覗き込むライルは一層ニヤニヤとした顔で内緒話をするように声をひそめた。

「兄さんが足腰立たないってかなりじゃん。」
「ッどこで……それを……」
「ん?刹那から聞いたけど。」
「〜〜〜〜〜ッ」

 さらりとした答えにがくりと両肘を机に付いてうなだれてしまった。今までの育った環境のせいか、刹那に世間話での羞恥というものが著しく鈍い気がする。おかげでこうしてニールの方があたふたとしてしまう始末。今度じっくり話合った方が良さそうだ、と思わずため息を吐きだした。

「……興味あるなぁ……えろえろ刹那。」
「えろえろ言うな。」
「んじゃ卑猥?」
「もっと悪いわ。」

 とても楽しげにしているライルにウンザリしながら、早く刹那が食堂に来てくれることを祈っていると更なる爆弾発言を投下されてしまった。

「今度俺も混ぜてよ。」
「………」
「………」
「………はぁッ!?」

 思わずがたん!と席から飛び跳ねるように立ち上がると「うるさい!ロックオンズ!」とティエリアにマグカップを投げつけられる。二人してどうにか避けてニールがヘコヘコと頭を下げた。深呼吸をして椅子に座り直すと投げつけられたカップを手で玩んでいるライルを振り返る。

「いきなり何言い出す!」
「んー?だって見てみたいし。」
「あら、じゃあ二輪挿しするの?」
「にりんざし?」
「前からも後ろからも挿れられるんですよ。」
「ッ!!?」

 ライルに気を取られすぎたらしく、気づけば向いの席へ座ろうとしているアニューと刹那がいた。話の内容を聞かれていた事と二人のほのぼのとした反応に開いた口がふさがらない。

「あれ?刹那は3P、OK派?」
「にりんざしとさんぴーというのがよく分からないが……ニールがしたいなら反対はしない。」
「あぁ……兄さん次第ね……」
「それで…ニールさんは?」
「ぅえ!?」

 にこにこと穏やかな顔をしたアニューにやんわりと話題を振られて声が上擦ってしまった。向いの席では刹那が持ってきたココアのカップを両手で包みこみ、少しずつ飲んでいる。上目遣いでじっと見つめられて余計に言葉が詰まってしまった。

「……あ……ぅ……」
「どうせ独り占めしたいんだろー?」
「俺はどちらでもいい。だが、ニールが嫌ならしない。」
「だそうですけど。」
「ぅ……う……」

 素直に白状するならば、美味しいからしてもいいかも。というところだ。何せ、自分以外の男に翻弄される姿など滅多に見れるものじゃないし、嫉妬とともに興奮もしてしまうに違いない。しかもその『男』が血を分けた兄弟であり、もっとも近い存在である双子の弟だ。最良の妥協点ではないだろうか。それでも愛する女を独り占め出来ないというのも少し悔しい気はする。
 そんな葛藤に揺らぐニールを知ってか知らずか、三人はさらに会話を弾ませてしまう。

「アニューは混ざらないのか?」
「混ざってもいいな、とは思ったのだけど……刹那さんの乱れっぷりを満足に拝めなくなりそうなので。」
「?そんなに見たいものなのか?」
「まぁ普段とのギャップを考えると興味が沸くかな。」
「見られるのならぜひともって思いますね。」
「……そういうものなのか……」
「あ、だったら視姦役はどうかしら?」
「……しかん……?」
「……アニューって結構Sっ気あるよな……」
「そう?じゃあ撮影係りがいい?」
「や、あんま変わらないし。」

 やけに乗り気な弟夫婦(仮)に再び項垂れてしまった。刹那は刹那で何をするのか具体的に分かっていないからか、拒否反応は一切なく。むしろ、受け入れてしまう予感がひしひしとする。むぅん……と眉間の皺を深く刻んでいると刹那の指が視界に入ってきて袖をついっと引っ張った。

「したくないならしたくないとはっきり言ってくれればいい。」
「……刹那……」
「あんたの嫌がることはしたくない。」

 じっと見つめてくる瞳が揺らいだように見えて目を瞬かせた。思わず手を差し出してその頬を撫でようとしたが、ふと状況に気づいてしまいピクリと肩を跳ねさせる。

「………」
「どうしたんですか?そのまま引き寄せるのでしょう?」
「周りはお気になさらず。」
「そうそう。壁だと思ってくれたらいいから。」
「……なんでティエリアまで……」

 中途半端に浮いた手をそのままにじとりと横へ視線を走らせれば思った通りのギャラリーが予想よりも一人多い。ひくついた表情で見上げると投げたカップを取りに来たのか、仁王立ちのティエリアがいた。ため息をついて前かがみになっていた体を元に戻すと向かい側の刹那は自分が何をされそうになっていたのか理解しておらず、首を傾げている。

「何故か?と聞かれれば、カップを取りに来たというだけです。」
「……あぁ……そう……」
「それから話の内容としてはもう少し声のボリュームを下げていただきたい。特に手前の二人。」
「「すいません。」」

 メガネをきらりと光らせてライルとアニューを交互に睨み付ける。話に夢中になってつい声が大きくなりがちになっていたことに気づかされた二人は素直に頭を下げた。そんな様子を見つつふと回りに視線を巡らせると、つい先ほどコーヒーを飲みに来た沙慈が気まずそうにカップに口をつけ、スメラギが呆れた表情を浮かべている。さらに部屋の隅には刺激が強すぎたのか壁に額を押し付けた姿のアレルヤがいた。そんな面々に苦笑を浮かべていると、ティエリアの瞳がきっと向けられる。

「それから、ロックオン・ストラトス。」
「はい!?」
「あなたのその優柔不断な態度が刹那を不安にさせていることの自覚を持ってください。」
「はい……すんません……」

 まるで学校の先生に叱られている気分になりながらもぺこりと頭を下げると、満足したのかティエリアは再びコーヒーを注ぎに行ってしまった。刹那はというとじっと静観したままで、イマイチ状況を飲み込めていないようだ。

「で?結局いいの?ダメなの?」

 ティエリアの背中を見送ったライルが頬杖をついて結論を問いかけてくる。その言葉にアニューも振り返り、刹那も視線だけで問いかけてきた。なぜだか一家の一大事を決定させられているような気分だが、いつまでもこうしてはいられない、と意を決して囁いた。

「……よろしくお願いします。」

 * * * * *

 視姦および撮影は丁重にお断りさせていただき、その代わりライルから事細かに聞くということでアニューには引き取って頂いた。刹那が人の視線を気にするかどうか分からないという理由もあるが、あまり見せびらかしたくはないというのも本音である。まだ4Pとかなら余地もあったかもしれないが、じっと見られるというのはどうも落ち着かないと思った結果だ。ふっと軽くため息をつくとライルが顔を覗き込みにくる。

「あれ?もう後悔してる?」
「んー……してないって言ったら嘘になる。」

 各々自室で体を洗い、ニールの部屋で集合、といって解散した。ただ刹那が体を洗いに行くのにアニューが付いて行ったのが少々気になるが、女性の入浴は長くなるものだ、と知っているので先にライルだけ来ているのは特におかしなことではない。そんなわけで男二人ベッドに腰掛けて一輪の華が来るのを待っていた。

「俺が混ざるのって嫌?」
「嫌っていうか……刹那の体が心配なんだよ。」
「……そんなにがっつくつもりないけど?」
「そうじゃなくて……」

 それはそれで刹那に魅力がないのか、と複雑な気持ちになりながらキチンと説明しようと同じ顔を振り返る。

「昼間したばっかだからさ。」
「あぁ、濡れるかどうかって心配?」
「……もうちょっとオブラートに包んで言えないのか?」
「いいじゃん、今更。」

 あっけらかんとしたライルに思わず項垂れてしまう。肝心なのは開き直りらしい…

「ま、アニューが何とかしてくれるでしょ。」
「……アニューが?」
「そ。何とかする為に付いて行ったと思うし。」
「……薬とか盛らないよな?」
「さぁ?」

 ひょいと肩をすくめる弟に盛大なため息を吐き出してベッドへと倒れこんでしまった。今更ながら流されてしまった事実に自己嫌悪が募る。しかしすべては後の祭り。呻いてごろごろと転がり行き場のない不満を少しでも発散させようとしていると、ライルからため息が吐き出された。

「いい加減腹括ってよ。」
「んなこと言ったって……」
「男に二言はない、だろ?」
「あー……そうねぇ……」

 もはやどうにでもなってしまえと投げやりになりつつあるニールをライルがずいっと覗き込みに来る。ぼんやりと見上げていると両頬をむいっと押しつぶされた。

「むお!?」
「同じ顔がここまでへなちょこになられると腹立つ。」
「別にへなちょこになってるわけじゃ…」
「だったらさっさと切り替えて。」
「ふお〜い……」

 眉間へのしわの寄り具合から本当に腹立たしいと思っていることを察する。自分はお兄ちゃんなんだし、と意を決して、未だ押し付けてくる両手をもぎ取って押し返そうとしていると……

「あ。」
「あ?」
「ん??」

 私服に着替えた刹那が扉を開いて入ってきていた。やっと二人きりから解放される、と思ったが、刹那の様子がおかしい。二人して同じ表情で顔を見合わせ、もう一度刹那を振り返ると、彼女は無言で一歩さがる。

「刹那?」
「どした?」
「邪魔をした。」
「「は?」」

 ぱっと顔を背けてしまった刹那に互いの状況を顧みる。
 ベッドに寝転がったニール。その上に覆い被さっているような態勢のライル。しかも互いの両手が攻防の末、取っ組み合いになっているのだが、見ようによっては引き寄せているようにも押さえつけているようにもみえて……
 くるりと刹那が踵を返してしまう。

「「待て待て待て待て待て!!」」

 薄ら寒い誤解を与えてしまった事実に気付き、今にも部屋から出て行ってしまいそうな刹那を二人がかりで引き留めにかかる。ニールが刹那の体を抱き止め、ドアのパネルを押そうと伸ばした手をライルが掴みとった。ともにぐったりと首を項垂れさせて大きく重いため息を吐き出す。

「お前さんは……おっそろしいこと考えなさんな……」
「まったくだぜ……鳥肌が全然治まらねぇよ……」
「……邪魔をしたのでは?」
「「な・い!」」

 刹那としても気まずかったのだろう、俯いた顔がそっと上げられるとその顎を掴み上げてニールが頬に唇を寄せる。擽ったさに目を細めると掴まれた手を引き寄せられて指先にも唇が寄せられた。

「同じ顔の男を抱くとか……勘弁してくれ。」
「俺らはナルシストじゃないっつの。」
「……そう……か……」

 自分が随分酷い勘違いをしたのだと理解した刹那がぽつりと謝罪の言葉を口にする。その様子に安堵のため息を吐き出すとニールはにっこりと笑みを浮かべた。その表情の変化にライルは僅かに首を傾げる。

「刹那。」
「……?」
「謝罪の証として刹那からキス。」
「!」
「あ、俺も欲しい。」
「な!」

 便乗する言葉とともにくるりと体の向きを変えられて、背中にニールの腕、腹にライルの腕が回される。互いに密着するよう体を寄せられると二人の体に挟み込まれるような態勢になった。左手をニール、右手をライルに捕らわれて指を絡められてしまい突っぱねることも振りきることも出来なくなる。

「ライルからしてもらうか?」
「兄さんが先でいいよ。」

 ぐるぐると思考がおかしな具合に回り続ける上で二人はこともなげに話し合っている。そこまできてようやく刹那は理解した。部屋を出る際アニューからかけられた言葉。

−「たっぷり可愛がってもらってくださいね。」

 てっきり『さんぴー』とは三人きりのお泊りのようなもので、『にりんざし』は端末を繋ぐ部品のようなもので三人がかりでないと出来ないような代物なのか、と、おかしな解釈をしていた。なので体を洗うのも、単に一日の汚れを落とす為だと思い込んでいたのだが、ニールがなかなか決断を下さなかった理由が分かったが、もう遅い。実行へ促したのはほかならぬ自分自身なのだ。

「せーつな?」
「ひゃっ!?」
「こんな時に考え事?」
「ぅんッ」

 左右の耳をそれぞれ舐められ、齧られてびくりと体が跳ねてしまう。いつもなら嬲られる逆の方向へ顔を逸らせば逃れられたのだが、左右から攻め立てられている状況では功を成しそうにない。それどころか唇を舐められて口付けを促されそうだった。違う動きで這い回る舌に背が反り返り、自然と腰を突き出してしまう。

「ぁッ……」

 震える足の間にニールが腿を差し入れ逃げ場を失ってしまう。さらに突き出した桃尻にライルの下半身が擦り付けられてしまい、布越しではあるが確かに存在する硬さに気づき思わず声を漏らしてしまった。差し込むだけだった腿が揺すられ股上を押し上げられるから身を捩って逃げようとするが更に追い詰められるだけだった。

「刹那……」
「……刹那……」

 ステレオのように両方から甘く掠れた低音が毒のように脳内へ染み込んでくる。ふるりと震えてそっと見上げた先にニールの笑みがあった。するりと手を解き頬を両手で包み込むと背伸びをして唇を重ねあわせる。体を支えるようにニールの両手が腰を掴むとライルの手が両脇の下を通ってきた。ぺろりと唇を舐められて素直に口を開くと温かい舌が差し込まれる。吸い付くように絡めればぴちゃりと音を奏で、熱を移されたかのように熱くなった。

「んんっ!」

 先ほどまで体のラインを辿るように上下していたライルの手が胸を鷲掴みにしてきた。突然の荒い動きに体を跳ねさせてしまう。感触を確かめるように揉みしだかれて呼気が乱れてきた。硬くなってきた実を服越しにぐりっと摘み上げられると唇を重ね続けるのは困難になる。

「ふあ!」
「えっろいおっぱいしちゃって…兄さんが育てたんだろ?」
「いや?元々感度はいいし、勝手にここまで育ったらしい。」
「へぇ……天然なんだ。」
「ほら、刹那。ライルにも。」
「んっん……」

 くにくにと先端を重点的に攻め立てられて、刹那はすでにとろけ始めている。それでもニールが促せば首にしがみついた腕を解いて後ろを振り返った。仰けるように反らされた首筋を指先で擽って、ひくりと震える体をライルの胸元に凭れかからせる。届きやすいようにと少し屈むと左手を重ねて体を支えると右腕が首に絡み引き寄せられた。ちゅっと可愛らしい音を立ててキスを施されると更に引き寄せられ唇が深く重なる。柔らかな感触に口角を上げると猫のようにぺろりと舌が唇を擽ってきた。強請るようなその行為にちろちろと動く舌を迎え入れてやると一瞬慄きはしたが、すぐに絡めてくる。

「うん、いい子。」
「んっ……」

 一生懸命に奉仕する刹那を褒めて無防備な胸元を寛げていく。ぷちぷちとボタンを外していくとライルの手が退けられて腰に巻いた布を外しに移動していった。ニールの両手が服の隙間から潜り込み脇腹をなぞるとぴくんっと小さく跳ねる。そのまま這い上がりタンクトップごと胸を持ち上げると眉を切なげに寄せくぐもった声を漏らし左手が制止するように肩を突っぱねてきた。

「こら、兄さんの邪魔しちゃダメ。」
「あ……んんっ……」

 刹那の僅かな抵抗に気付いたライルが両手を掴み上げてしまう。両腕を横に退かされていやいやと首を振ると弛んだ襟元から覗く首筋に噛み付かれた。動物の甘噛みのような強さで痛みはないが、八重歯の食い込む皮膚がじわじわと疼いてくる。

「ゃうッ……」
「気持ち良さそうな顔。」

 いつもではされないような攻め方にうろたえているというのに、躯はすぐに快感として変換してしまい刹那の理性を侵していく。困惑と気持ちよさで板挟み状態になっているとくすりと小さく笑うニールの声が聞こえる。

「マジで?こっちからじゃちゃんと見えないんだよ。」
「はっ……ぅ……」
「うん、いい感じにメロメロんなってるぜ。」

 すぐ傍で囁かれる会話にふるふると首を振るうが、そうしても聞こえてしまう声に羞恥でかっと体が熱を上げる。ニールの手がいつの間にかタンクトップの中に潜り込みさわさわと撫で回していた。ブラのカップの上から撫でては淵を指先でなぞり回す。無意識に後へと逃げる躯はライルの胸に阻まれ、ニールの好きなように揉み上げられた。形が変化するほどむにゅりと寄せ上げられて生地を捏ねるように回しながら押しつぶされる。自然と上がる呼気にくらくらとし始めると力の抜けきった両手を開放されてだらりと垂れる腕から上着を抜き去られた。

「タンクトップって……思ったより卑猥に見えるんだ……」
「あー……そうだな。」

 肩では黒い布の下から白く細い紐が見え隠れし、胸ではニールの手が動き回っているせいで布が持ち上げられては胸元の隙間から柔らかなラインを描く谷間がちらちらと覗いている。吐き出す呼吸の熱さに刹那の首は反らされ、ライルの首元へ甘えるように額を押しつけていた。その光景を真上から覗くようにして見ている状態の二人はまじまじと刹那の様子を覗う。

「ぁ……ふぅんッ……」

 半ばぼんやりとしているらしく、潤んだ瞳が黒髪の隙間から伺える。ぴくんっと躯を跳ねさせる度にライルの首筋へ擦り寄り、無意識の内にニールへ差し出すように胸が反らされた。甘えるような声で啼き、ふと止まってしまった手の動きに恐る恐る瞳を上げて伺いを立てるように視線で訴えてくる。

「……着えろも大いに歓迎したいけど……ぶっちゃけ見たいんだよね……」
「素直でよろしい。」

 弟の素直な申告に兄が頷いた。躯の力はすでに抜け切っている刹那は成すがままに弄られ続けている。いつもと比べ抵抗が少ない。むしろまったく出来ていない状態であることをいいことにタンクトップを脱がせついでにスラックスも脱がせてしまう。ランジェリーのみにした刹那を二人がかりでベッドに運ぶところりと寝かせた。
 シーツの白にランジェリーの白が同化してしまうかと思ったが、刹那の体のラインによってコントラストがはっきりと付けられ、まるで浮き出したようだ。しかも蜂蜜色の濃い肌色に白が映えてなおのこと色っぽく見える。不安げに揺れる瞳に微笑みかけて目尻に唇を押し付け、擽ったそうに身を捩る刹那の顔中にキスを降らせた。所在無さげな手に指を絡めて先から順に舌を這わせる。時折柔肌を食むように歯を立てると小さく啼き声を漏らした。くたりとしたままの躯に手を沿わせていたライルがふとニールを振り返る。

「……兄さん……ひとつ聞いていい?」
「うん?」
「キスマークはつけない主義?」
「あー……」

 別に付けない主義というわけではない。むしろいつもならば刹那に涙目で「もう付けるな」と言わせるくらいあちこち付け回っている。何しろ敏感な肌は唇で擽るだけでもひくりと震えるので、その光景をたっぷり拝むのが楽しくてならないのだ。ただ、今日は検査もあるので裸体が人目に触れることを考慮して付けなかっただけだった。言い訳がましく聞こえるだろうが、そう答えるとライルから納得した声が上がる。

「なるほどね……分かった。」
「?そんなに不思議なのか?」
「や、アニューがさ。刹那の体がいつも何の痕もないって言ってて。」
「……あにゅー……」

 彼女は一体何を期待しているのだろう?……思わず項垂れてしまった。


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