「Wロックオンさん。一つ質問してもいいですかぁ?」
「うん?」
「なんだ?」

 それはなんの変哲のない昼ご飯時だった。
 食堂の片隅にここのところチームプレイのシミュレーションを共にしている三人が並んでフォークを動かしている。地上でニールの新たなガンダムの微調整をついこの間済ませてきたので、もうすぐロールアウトする事になる機体の為にもニールが勘を取り戻すべくシミュレーションを重ねているのだ。それに伴い、機体の性能上コンビを組むことの多い刹那とのコンビネーションを確かめたり、そこにライルも加えてフォーメーションを組んでみたりと連携の確認を行っている。それ故にここ数日、この三人は共に行動していることが多かった。
 休憩のついでに食事にしようとやってきた食堂で、壁際の席に刹那を座らせ、その横にニールが座る。そしてその更に横にはライル。この兄弟が並ぶことになったのは決して当人らの意思ではなく、刹那の…

−「兄弟なのだから並んで座ればいい。」

 という半強請的な言葉のせいだ。一人っ子の彼女にとって『兄弟』という関係は初めて見るものであり、家族ならば仲良くあってほしいというささやかな願いも含まれている。めったに言葉に出さないが故のその真意を容易く汲み取れてしまう2人に反対を告げる事は出来ず、その結果仲良く並んで座っていた。そして刹那が壁際でニールの横になっているのは、パイロットスーツの上半身を脱いでいる状態の彼女の隣に誰も座らせないようにするためのニールの案だったりする。とはいえ、それを直接言ったりはしないが……
 そんなわけで三人並んでいる向かいの席に艦内最年少の少女がちょこんと座って首を傾げた。彼女がよく言う質問の内容はいつも突拍子なく放たれるので今度は何か、とこちらも首を傾げてしまう。

「どちらがお兄さんなのですかぁ?」

 こてんと逆に首を傾げたミレイナに釣られてニールの首も反対側へ傾げられる。

「どっちって……」
「そりゃ……兄さんは兄さんだからニールの方……」

 今更何を聞くのだろうか?と隣に座る相方へと顔を向けると、隣でも同じ表情を浮かべてこちらを見ていた。先日地上に降りた際、刹那と一緒に制服とパイロットスーツを受け取った今、ニールとライルの見分けは容易く付くようになっている。
 この前まではライルの予備を着ていたニールはジャケットの有無で見分けられていたのだが、新調してもらった際に色を変更してもらっている。濃色の多いライルに比べてニールは淡色が多い。ジャケットの上部に緑、下部に青緑。インナーは少し暗めのエメラルドグリーンだ。制服の色に合わせてパイロットスーツもニールのカラーはライルのものより明るい。
 それに2人して同じ服装であるにも関わらず着方に個性が出ている。全てちっきりと着込むライルに対してニールは首元の詰まった服は苦手らしく必要でない限りその襟元は緩められていた。現に今パイロットスーツで三人並んでいるわけだが、上半身を腰元に括りつけている刹那とニールに対してライルはファスナーの前を開くだけに留まっている。
 見分けが付いていないわけではないだろう?と確認するように指差しながら言うと、ミレイナは少し眉間に皺を寄せて尚も言い募ってきた。

「え〜?でも、初代さんは5年前に一度死んでしまって今生き返ったのでしたら24歳だと思うのです。」
「あ、そうか。」

 5年前の戦いで散らしたはずの命を今再び生きているニールはいわばタイムトリップしてしまったようなもので……ならば年齢も5年前のまま。ならば、おかしな話ではあるがずっと生きていたライルに比べ、ニールは5年前で止まっているということだ。ミレイナの聞きたいのはどうやらそこら辺のことらしい。

「ということは……初代さんは弟さんになるのではないですか?」
「では……ライルの方が兄でロックオンは弟なのか……」

 確認のように言葉を重ねるミレイナに刹那も頷いて横に座る兄弟をじっと見つめる。その2つの視線を受けて双子も互いの顔をじっとみた。

「………」
「………」
「………」
「………」

 しばし思考に耽っていたのだろう、ニールがふと片手をライルの肩にぽんと置かれる。

「………兄さん」
「言うと思った!!!」

 ぐっと真剣な表情を作ったニールがまるで今再会しましたといわんばかりに囁けば、ライルがテーブルを叩きながらわめく。

「え?だってそうなるじゃん。」
「イヤだね!絶対イヤだね!!兄さんに『兄さん』って呼ばれるなんて断固拒否だ!」

 肩に乗せたままの手をぺいっとどかせて椅子から立ち上がる。その表情はどこか鬼気迫るものが感じられるが……過去になにかあったのだろうか?髪の生え際に近い肌がぷつぷつと凹凸をつくっていた。

「そんな鳥肌立てるほどイヤかい。」
「当たり前じゃん!兄さんの兄さんなんて有り得ねぇ!」
「……ということだ、ミレイナ。」

 とりあえずいきり立つ弟を宥めて席に座りなおさせると苦笑を浮かべたニールが振り返る。早い話当人にとってはどっちでもいいらしい。

「うーんと……じゃあ年下お兄さん、ということですか。」
「寧ろ兄さんも29歳でいいんじゃない?」

 一頻り叫んで落ち着いたのかフォークを握り直したライルがぽつりとそんな事を言ってのけた。

「え!?人生5年すっ飛ばしちゃうのかよ!」
「飛ばしたところでさほど害はないと思いますよ。」
「そうだな、もともと親父くさいし。変わらないだろう。」
「ちょっと刹那さん、何気に傷つくこと言わないでもらえますか。」

 いつの間にかミレイナの横へと来て昼食を食べ始めたティエリアがさらっと会話に加わった。そうしたら刹那もさらっとキツイ言葉を放ってくれる。思わずその肩に手を付いて項垂れてしまった。この2人……いつの間にこんな仲良くなってしまったんだ?……

「いいじゃないですか。カプセルで寝てたとでも思えば。」

 にっこりと綺麗な笑みを浮かべるティエリアにニールはも……うー……とか……あー……とか意味不明な唸り声を上げるしかなくなってしまった。そんなニールを見て刹那はなにやら考えながら口にフォークを運ぶのだった。

 * * * * *

「ニール?」
「……うんー?」

 シミュレーションも一区切りして夜も更けたという事を時計で確認すると、各々休息をとるべく部屋へと散っていく。その中でいつも通りとでも言うように刹那はニールと一緒の部屋に来ている。備え付けのユニットバスで互いに汗を流してあまり広くないベッドの上、シミュレーションのデータを見ていた刹那の腰に腕を回してくっついてきたニールをわずかに見上げる。
 名前を呼ばれても止める気はないのか、また、刹那もソレを分かっているのか、首元へと擦り寄るニールをそのままに言葉を続ける。

「……年齢を調べることって……出来るのか?」
「んー……出来るんじゃね?骨とか細胞調べたら何年生きてたかとか分かると思うし。」
「……そうか。」
「……それがどうかしたのか?」

 ニールの肯定を聞いて刹那はまるで興味をなくしたように話を途切れさせてしまう。首を少し傾げながら刹那の後ろに回ると抱き込むようにして座る。悪戯に耳へ噛み付くと肩がぴくりと跳ねてちらりと視線を投げてきた。

「どうした?」
「……ちゃんと……年齢とか調べた方がいいのかと思って。」
「ん〜……そうだなぁ……24でも29でも変わらないっちゃあ変わらないんだがなぁ……」
「……29はいやなのか?」

 昼の会話を思い出すとどうもニールは5年すっ飛ばしてしまう事が嫌だと言っていたように思う。例に挙げる人物が少し失礼だとは思うが。スメラギでもあるまいし、今更年齢を気にするのだろうかと少々不思議になった。端末を落として肩越しに振り返ろうとすると向かい合わせに座りなおさせられる。

「っつうかさ……24がいいなぁ……みたいな?」
「何故24がいいんだ?」
「だってほら……」

 わざとらしく言葉を区切ると向かい合った刹那を抱き寄せ額同士をこつりと合わせた。

「俺が24なら刹那と歳近いから嬉しいなぁ……とか思ってみたりして。」

 にっこりと笑って言われると頬が自然と熱くなる。きっと赤く染まっているだろうその頬にちゅっと口付けをしてくれた。そのまま目元や額にも落としてきたが、ふと気付いてくすくすと笑い始めてしまう。

「刹那?」
「いや……すまない……もしかして、5年前は8歳差だと犯罪気分だったのかと思うと……」
「昔だけじゃなくて……今もおじさんが若い娘に手を出してる気分なんですー。」

 素直に自白をすれば肩を揺らして笑うから鼻先に噛み付いて反撃をしてやると、まだ少し笑いながら「すまない」と言ってくる。そうして微笑みを浮かべたまま両頬を包み込まれるとまた額を合わされた。

「……一度しか言わない……」
「ん?あぁ。」
「あんたが何歳だろうと俺は愛してる。」

 はっきりと告げられたその言葉に目を瞠れば勝ち誇ったような笑みを浮かべる刹那の赤い瞳が見える。数回瞬きを繰り返してふっと笑いが漏れた。

「サイコーの殺し文句だよ。」

 そう囁いて重ね合わせた唇は熱を持っていた。


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ちょっとぐだぐだになってしまいました;
拍手のコメで兄さんの年齢を聞かれて
確かにいくつだろう?この人って思って書いてみたのですが…
…自称24ということで。(笑)

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