「なぁ、刹那ぁ……」
「……」
「刹那ってば。」
「………」
「せっちゃぁん。」
「うるさい。」
「だってさぁ……滅茶苦茶痛いんですけど。」
「黙れ。自業自得だ。」

 頬に色鮮やかな紅葉をつけられたロックオンをあしらい、機嫌を急降下させたままの刹那は顔すら合わせようとしない。それでも返事をしてくれている辺り小さな優しさを感じられる。

「な、頼むからもう一個だけ食って?」

 明らかに茶化すような声音ではなくなった事にちらりと視線だけで振り向けば、淡く微笑みかけている。皿の上に残る少数のメニューの中から満腹でもするりと食べられそうなものを選び抜いてくれた。そっと掴んで取り上げてくれたのは瑞々しい色をしたメロンのキューブだ。ほとんど水分であることから無理なく食べられそうだった。

「………」
「ん、おりこうさん。」

 渋々向き直って口を開けば褒めてくれつつ運び込んでくれる。けれど先程まではすんなり離れていった指が口の中に留まったままだ。不思議に思い上目遣いに尋ねてみるとにっこりと微笑まれる。

「拭くもの持って来るの忘れてさ。そのまま舐めて綺麗にしてくれるとありがたいんだけど。」

 そう言われてみればナプキンの類がないな、と納得できた。舌の上に乗せられたメロンを上顎に押し上げて潰すとすぐに形を解けさせる。ジュースのようになってしまえば、喉の奥へと流れていってしまった。そうして残った彼の指に舌を這わせ始めると、指の表面に付いた果汁を舐め取っていく。すると舌先を擽るように指が蠢きだした。

「っ……」
「そのまま……吸い上げて?」

 擽ったさに思わず肩を跳ねさせていると耳元で次の指示を出される。耳朶に纏いつく熱い吐息に眉間へ皺を寄せつつも従うと引き抜くのかと思われた指はぬくぬくと小さく動かされるだけだった。唇を擦る指に飲み込めない唾液がくちゅくちゅと音を立てる。その音に長期任務に就いた時をフラッシュバックしてしまって顔が火照ってきた。

「はい、ご苦労さん。」
「っん……」

 ちゅぷっと濡れた音を立てて指が引き抜かれていく。ご褒美のつもりなのか、頬に擽るような柔らかな口付けも落とされた。

「……やっと行ったな。」
「?……なに?」

 そろりと肩越しに振り返る彼に首を傾げる。扉の方に誰か来ていたのか?とも思うが、口ぶりからしたらどうも厄介払いが出来たといった雰囲気だ。

「ちょいとな……ストーカーさんが居てさ。」
「尾行されていたのか?」
「うん、お前さんがね。」
「………え?」

 思わず素っ頓狂な声を上げると苦笑で返された。

「またさっきみたいに離れないかなぁ……って虎視眈々と狙ってたみたいだな。」
「……まさか……」
「そのまさかだよ。」

 くしゃりと髪を撫でる彼の声音は茶化しているようには聞こえないのだが、やはりどこか信じきれないものがあった。とはいえ、あまり突っ込んで聞きたいことでもないし、面倒なことになるのも嫌なのでこのまま戻ってきませんように……と密かに願ってしまう。

「ところでさ。」
「?」
「随分えっろい顔してしゃぶってくれたけど。」
「ッ!」
「欲求不満?」

 まだ赤みの残る頬を突付かれて尋ねられた内容にぐっと言葉を詰まらせてしまう。そんなことはない、と言いたかったが、その言葉を紡ぐよりも先に頬が再び熱くなるのが分かった。

「おや?図星かな?」
「〜〜〜っ」

 自然と涙ぐんできた瞳できっと睨むもきっと逆効果なのだろう、レンズの向こうですぅっと細められる瞳が獣じみた色を滲ませ始めている。その上、にやりと人の悪い笑みも浮かべられてしまった。途端に跳ねる肩に危機感なのか恐怖感なのか、それとも何かを期待しているのか……判断の付かないままに鼓動が早まっていく。

「刹那……」
「!」

 二人の距離を詰めるように体を寄せると逃げるかと思ったが、ぐっと耐えてじっと見つめ返すだけの刹那にそっと呼びかける。すると掠れた声音に何を言わんとしているのか気付いてくれたのだろう、きゅっと唇を噛んで恥ずかしげに視線を外してしまった。

「……ダメ?」
「……その、聞き方は……ずるい……」

 抱き寄せると素直に沿わされる体を抱きしめてそっと囁きかけると拗ねたような声で返される。けれどジャケットを掴む指に自然と弛む顔が止められない。

「んー……じゃあ、抱かせてください?」
「……直球過ぎる……」
「むっずかしいなぁ……」

 言葉を変えるとまたダメだしをされてしまった。厳しい意見にもっと他に何かあるかと巡らせるも一向に浮かばない。それでも刹那の体は完全に胸へと寄りかかっているので猶予はまだあるようだ。

「……うーん……」
「……別に……」
「ん?」
「……別に何も言わなくていいと思う。」
「えー……だって……」
「なに?」
「刹那の嫌がることしたくねぇし。」

 ちょっと拗ねたような言い方をしてみると呆れたのか小さくため息を吐き出されてしまう。少し調子に乗りすぎたか?と警戒していると猫が甘えるように首元へと額をこすりつけてきた。

「(お?)」
「嫌だったらとっくにあんたを蹴るなり殴るなりして倒している。」

 ぶっきらぼうに告げられた言葉に思わずその光景を思い浮かべてしまい、小さく笑いを溢した。

「そんじゃ、参りますか。」
「?どこに行くんだ?」

 てっきり会場の上の階にあるレストルームに行くのだと思っていたらしい。フロアの光から遠のく闇の中へと歩を進めると不思議そうに問いかけられた。手を引いてエスコートしながら中庭を進むと月明かりの中に本館よりは幾分小さい建物が見えてくる。横を歩く刹那も建物に気付いたのだろう、ぱちくりと瞳を瞬かせていた。

「お嬢様からちょっとしたご褒美。」
「……え?」
「あの中の一室で一泊できるんだよ。」

 本館とはかなり距離もあるし、宿泊できるという点からも安心したのだろう。心なし緊張していた表情が僅かに和らいでいく。

 * * * * *

 ある程度予測はしていた豪華な内装の別館にはゲストルームがいくつも並んでいる。二階に上がり廊下の付き辺りまで行くと、どうやらそこが宛がわれた部屋らしい。胸ポケットから取り出したカードキーを差し込み静かに開かれる。オレンジ色をしたルームランプだけが灯された部屋は柔らかな色彩で浮かび上がっていた。

「っ!?」

 突然腕を回されたかと思えば抱き上げられて部屋の中へと連れ込まれる。広い肩ごしに閉じる扉が……カチャリ……と小さい音を立てて施錠する音を聞いた。思わず首にすがり付いてしまうと宥めているのか背中を摩られる。

「刹那……姫始めしよっか?」
「?……ひめ?」

 部屋の中央までくると、黒い髪の隙間から覗く耳に出来るだけ唇を近づけて囁きかけると、聞きなれない言葉に疑問符が返される。抱き締める腕の力を緩めると下ろそうとしていることが伝わったらしく、首に絡める腕の力を緩めてくれた。

「どういう意味だ?」
「今年になって初めのえっちをしようっていう意味。」

 またうっかり張り手をされないようにとぎゅっと抱き締めたままに意味を教えると数秒遅れて頬を赤く染め上げる。表情の変化にほほ笑みを浮かべながら顔を近づけると慌てて瞳を閉じてくれた。

「……っん……」

 そっと唇を重ねれば鼻にかかった甘い声が零れ落ちた。緊張しているのか、かすかに震える唇にいつまでも慣れない刹那が愛おしく感じる。より深く重ね合わせるとおずおずと開く唇から舌を差し入れ、縮こまったままの舌をなぞると腕の中でふるりと体が震えた。

「っは……ぁ……」

 角度を変えるのに僅かながら唇を離して再び口づけて…何度か繰り返すうちに刹那の呼気が荒くなっていく。ぎゅっと握りしめていた指先も震え、徐々に力が抜けて行った。背中に回した手をそろりと下ろして丁寧に結んだリボンを解いてしまう。口づけに夢中になっているだろう彼女の反応は今のところまだない。はらりと落ちる布から手を離すと次はきっちりと閉じられたファスナーに取り掛かる。背中とドレスの間に指を差し込み僅かに浮かすと、もう片方の手で焦らすようにゆっくりと下げて行った。

「んっ……ふぅっ……」

 口内を蹂躙する舌の動きを止めることなくファスナーを下ろしてしまうと重力に従ってドレスが滑り落ちていく。ぱさりと乾いた音を聞いたところでようやく唇を解放すると、すっかり上気した頬と潤んだ瞳で見上げてくる顔が確認できた。そのまま少し体を離すようにするとジャケットを掴んでいた刹那の手が外れて胸元で交差する。

「……あれ?ノーブラ?」
「……ドレスに……カップが付いてるから必要ない……って……」
「ふぅん?」

 とは言うものの、ニップルだけでも着けていないと擦れてしまうのでは?と少し首を傾げてしまった。もしかすると、男の胸はまな板なので擦れる心配はないのだと思われたかもしれない。実際のところは落したドレスのカップよりも刹那の方が膨らみがあるように思う。もしかするとデザインとしては、大昔のドレスのように胸の膨らみをドレスのラインの上に半球状に作り出すものだったかもしれない。けれどそんな事は所有者に聞かなければ分からないし、刹那としても抑えこめたので結果オーライといえばそうとも言えた。

「苦しかったんじゃねぇの?」
「いや、コルセットと変わらなかった。」
「……ならいいけど。」

 もし苦しいのを我慢してたのだとしたら紳士として失格だっただろう。いや、刹那の事だから多少苦しくても何事もないように隠していたかもしれない。どちらにせよ、浮かれてばかりだった自分に多少の罪悪感を感じ、そっと頬に口づけた。

「っ……ぁ……〜〜っ」

 頬の柔らかさを堪能し、首へと移動していくとか細い声が聞こえてきた。浮き出る鎖骨を舐めれば必死に声を抑えようとしているらしい。いつも以上に敏感な体が刹那の興奮度合いを教えてくれる。あちらこちらと舐めては気まぐれに歯をたてると、ぴくっと跳ねる肩にだんだんと調子づいてしまった。

「……刹那……お手てが邪魔なんだけどな?」
「ふっ……んん……っ……」

 胸元を覆い隠す手に唇を寄せて舌先で擽れば、ぴくぴくと跳ねるものの、一向にどかされない。ちらりと見上げると頬を真っ赤に染めて、ぎゅうっと瞳を固く閉じていた。その表情に、随分恥じらっている事を察することが出来る。
 しかし、いつもと比べると羞恥を感じるにはまだまだ序の口である。常ならば、涙を浮かべるまでしつこく言葉責めを繰り返し、呂律が危うくなるほどに快楽を詰め込ませて自分から恥ずかしい言葉を言ってオネダリさせていた。けれど今の刹那はもう涙を浮かべていそうな雰囲気がある。

「んっ……んぅっ……」

 試しに、と隠されてしまったままの胸を避けて無防備な脇腹に唇を押し当てるとそれだけで躯を跳ねさせている。それどころか、全身が細かく震えているようだ。
 何か刹那がここまで敏感になるようなことはあったか、と思考を巡らせ、ふと周りに視線を走らせてみる。反応が著しくなったのはこの部屋に来てからだと思われたからだ。

「………(もしかして?)」

 いつも裸で睦み合う部屋に比べ贅の限りを尽くした内装の部屋は、もちろんのことうんと広い。その上いつものように縋りつけるシーツやカーテンといったものも一切手に届かない状態でもある。……つまり……

「(隠す場所がなくて恥ずかしいのか)」

 さわさわと撫でさする手の動きは止めることなく、指先の動くにぴくりと跳ねては熱い吐息を吐きだす刹那にロックオンは舌舐めずりしてしまった。よくよく観察してみれば、ガーターによって腰から吊るされたままのレースストッキングが、ぎゅっと寄せられた太股に擦られて伸びたり縮んだりしている。

「(……ガーターって目茶苦茶えろいんだなぁ)」

 観察すればするほどに、刹那が今、いかに厭らしい格好になっているかがわかってしまう。それに比例して熱くなる下半身と、もっと苛めたくなる心境に胸が自然と高鳴った。
 もじもじと動く足の付け根にねっとりと視線を這いあがらせていると、常に見ないトライアングルに気がついた。艶々とした光沢を放つそれは薄暗い部屋の中でもくっきりと目立つ純白をしていて、左右にリボンが出来上がりその場所に固定されている。ストッキングを吊るしている紐の上に重なるそれはショーツで間違いないが、ロックオン自身が初めて見るもので…明らかに刹那の所持品ではない。

「これ。」
「ひゃぅっ!」

 綺麗なYの字を描く中心に指を差し入れると刹那の背がびくりと仰け反った。ぷにぷにと心地いい弾力に阻まれながらも差し込むと、しっとりと揺れた感触が指に広がる。つるりとしたサテン布地の助けもあってすんなりと指の付け根まで入ってしまった。そのままくにくにと指を蠢かせると一際大きく躯を揺らして啼き声を上げる。

「あっ……ぁんっ……!」
「履かされたの?」
「んっ……んぅ……すめ、らぎがぁ……」
「スメラギさんの指示?」
「ぅんっ……おとこっもの、じゃ……だめっ……てぇ……」

 動かす度にじわじわと揺れ広がる布の感触を確かめながら、がくがくと震える足でどうにか立っている刹那を見下ろした。黒のストッキングに真っ白のショーツ。妖艶さに清純さを掛け合わされたギャップのあるチョイスにロックオンの瞳が釘付けになる。

「……サイコーだな、スメラギさん……」
「ふっ……う……?」
「すっげ興奮する。」
「ひぁっんん!」

 よく見るようにその場に膝まづくと不安そうな瞳で見つめてくる。その瞳を見上げてにっと笑いかけると、差し込んだ指を曲げて布越しに花弁へと突きたてた。びくびくっと仰け反る刹那の躯を見上げながら口で腰のリボンを解いてしまう。気まぐれに腰骨へ齧りついてはもう片方の手全体を使ってきゅっと引き締まっている桃尻を撫で上げた。ぐにぐにと指を出し入れしていると次第に粘着質な音が鳴り始める。

「あっ……はぅ……っんふ、ぅ!」

 足に力が入らなくなってきたのだろう、刹那が震える手で肩を掴んでくる。無防備になった胸にも構えない程らしく、腰を必死に逃がそうと突き出していった。崩れ落ちかける上体を必死に腕で支えながら仰け反る背と跳ねる躯のせいで控えめな乳房がふるふると揺れている。紐が片方解けた為に辛うじて引っ掛かっていた布がはらりと落ちた。

「やっ……ゃあんっ……!」

 閉じた太股と花弁を弄るロックオンの指によって股上に引っ掛かってはいるが、少しでも足を開けば途端に落ちてしまうだろう。なんとか拾い上げたいが、悪戯に刺激を与え続ける指のせいで手を動かそうにも倒れそうで支えるのが精いっぱいだ。

「わぁ……刹那ってば……大・胆。」
「ッ……ばかぁ……!」

 どうにかしたくても出来ない躯がもどかしく、更に力の入らなくなっていく四肢を持て余し、ロックオンの頭を抱き込むようにして縋りついてしまった。自然と頬に押し当てることになる胸が恥ずかしいが、構っていられない。腰を支えてくれていた手が移動して後ろからも花弁を弄られてしまう。

「あぁっ!はぁっんんっ!」

 後ろから潜り込んできた指にも布ごと押し込まれてしまう。逃げるように腰を突きだせば突きだすほどにその手へと押しつけてしまい、結果的に指を深く咥えこんでしまった。そうなると今度は前から悪戯をしていた指が蜜壺の中にまで侵入することが出来なくなったらしく、感じ入ってすっかり固くなってしまった花芽を弄り始める。

「やぅ!ぁあんっ!」
「今日の刹那は……随分敏感だな?」

 まともな言葉を上手く紡げずにゆるゆると首を振っていると彼の頭が動く気配を感じた。離されるのだろうか、と安堵と不安の入り混じった感情に戸惑ってしまう。僅かに手の力を弛めると無防備な胸へと齧りつかれてしまった。

「あうっ!」

 乳房全体を口で包まれ湿った口内に迎え入れられると尖らせた舌先が表面を突いてくる。更に固くなった実まで弾かれてじんじんとした疼きを与えられた。転がすように舐めまわしては、舌先で押しつぶしたり、軽く歯で挟んだりとされるとおかしくなってしまいそうになる。

「あッ……あっ……ろっくぅ……お、んん!」

 舌っ足らずながらも必死に呼びかけてみるが、一向に止めてはもらえず、じわじわと全身を甘く疼かせる快楽ばかりを詰め込まれていく。蜜壺の奥がさらなる刺激を求めて疼き、脆い理性を容赦なく喰い千切っていった。

「やっ……ぁんっ……ぁ、あ!」

 耳を擽る甘い啼き声にもっと虐め抜いてしまいたくなってきた。肩に縋りつく指の震えや、布ごと包み込む蜜壺の締り具合から察するにそろそろ絶頂が見えてきているだろう。花芽をコリコリと弄るだけでもすぐ達してしまうところまできているらしく、一際高い声で啼いて見せた。

「あぁんっ!」
「……刹那……」
「ぁ……あ、ぁぁ……」

 派手な音を立てて実を吸い上げるとびくりと背が仰け反った。けれどその瞬間に弄り続けていた手をすべて止めてしまう。すると中途半端に解放されて酷い疼きが躯を侵し始めたのか、腰が勝手に揺れている。

「刹那?」
「ぁ……う……」

 顔を見るべく肩に額を押しつけているのを離させる。顎を持ち上げて正面から見合わせるようにすると、羞恥からか頬が更に紅くなっていった。

「お願いなんだけど。」
「……?……」

 快感で躯中蕩けながらも必死に言葉を聞き取り、小首を傾げる刹那に甘くほほ笑みかけてそっと言葉を紡いだ。

「俺も気持ち良くして?」


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