「…ふーん…」
「ッひゃあ!?」

 晒された耳にぬるりと生暖かく柔らかい感触が這い回り思わず腕を振り上げると、その手首を掴まれて強引に引き寄せられてしまった。振り向いた先にあるエメラルドグリーンの瞳に意識を奪われていると、浮き上がった上体をとん、とエクシアへと押し付けられる。正面から向かい合ってしまったその顔はいつもの笑みなど浮かべてはおらず、息を止められそうなほどの真剣な表情をしていた。ぐっと近づいてくる顔から逃げられずに凝視していれば、ロックオンの体全体に押さえつけられ押し返す為の腕もろとも拘束されてしまう。

「…ぁ…」
「唇かっさかさ…ホントにずっとここにいたんだな…お前。」
「…ッ!」

 きゅっと閉じていた唇をぺろりと舐められ首を竦めてしまった。そうして振り切るように首を振ると詰めた距離をそのままに唇が開放される。顔を反らした状態のまま居た堪れない気持ちでいるとロックオンが動く気配がした。

「…んッう!?」

 そろりと様子を伺おうとしたところに顎を掴まれて上を向かされるとまた唇が降ってきた。己の唇を塞がれて目を見開けばじっと見つめるエメラルドグリーンの瞳とかち合う。困惑していればぺろりと唇が舐められ、くすぐったさに弛めてしまえば僅かに開いた隙間から舌がねじ込まれる。抉じ開けられた口内にとろりと生暖かい液体が注がれた。思わず嚥下すればふと開放される。

「な…に…」
「ただの水。脱水症状になりたくないだろ?」
「んぅ…」

 説明をする間にも目の前でボトルを傾けて水を含むとまた唇を塞がれる。今度は素直に口を開くとまた注ぎ込まれた。

「っふ…ゃ…じぶんで…」
「だめ。心配させたバツだ。」
「んっ…」

 何とか逃れようとするも完全に押さえ込まれた体では大した抵抗も出来ず、その後も延々と口移しをされ続ける。
 口移しで飲まされ続け、ボトルの半分は空いた頃刹那はもう一度抵抗を見せた。

「も…いらな…」
「ん。じゃあこれでお終い。」

 僅かに唇が開放される瞬間にいらないと告げればもう一口飲むように促された。逆らった所で無理にでも飲まされるのは分かっているので、大人しく従うことにする。口内に注がれた水をこくりと喉を鳴らして飲み干した。

「ッ…んんっ…?」

 唇を離そうとしたら首の後ろを固定され、離せなくなってしまった。それどころか唇がより深く交わるように抱き締められてしまう。

「んっ…むぅ…」

 離してくれ、と抗議したくても塞がれた唇では言葉を紡ぐ事は出来ず、体と一緒に抱きこまれた腕を突っ張ってもびくともしない胸元のシャツを掴むのが精一杯だった。どうしよう、と思考を巡らせ始めると口内にぬるりと熱く柔らかな感触が入り込んでくる。驚愕の余り目を瞠ればすぐ近くにあるエメラルドグリーンの瞳がふと細められたのが見えた。

「ぅん…ッんん」

 入り込んできたソレは舌裏を擽り歯列をなぞり上げては戯れるように擦り付けてこられる。途端に背筋がぞくぞくと震え全身まで小刻みに震えてしまう。それでもロックオンは開放してはくれなかった。

「っふ…あぁ…」

 漸く開放された時には息も絶え絶えに体の、指1本さえ動かすのが億劫なほど力が入らなくなっていた。そんな状態で見上げる先には微笑みを浮かべるロックオンの顔が見える。

「…いい顔…」
「は…ぁ…」

 上がったままの息を治めようと荒々しい呼吸を繰り返していれば、長い指が頬を擽りながらぽつりと言葉を漏らす。不意に近づく顔に思わず瞳を閉じれば唇は額や目尻、頬を撫でて離れていった。

「刹那…お前さんに言っておくことがある。」
「…」

 顎を掬い上げられたままじっと見つめて来る表情にびくりと背が小さく跳ねる。つい今しがたまで忘れていた胸の痛みがさっきよりも酷くなって息が詰まってしまう。唇をきゅっと噛み締めて挑むような目つきで見つめ返した。

「スメラギに…」
「ッ!いやだ!!」

 告げられた名前に顔を背け渾身の力でもって腕を突っぱねればようやく拘束から開放された。そのまま逃げ出そうとしたが、長く逞しい腕に絡め捕られ押し倒されてしまう。上から覆いかぶさる気配に横たわった体を丸めて拒絶するように耳を塞げば、その手の甲に唇を寄せられた。ぴくりと跳ねればぺろりと舐められ思わず力を緩めてしまった。そうすればロックオンの手が手首に絡みついて引き離される。

「刹那…」
「やッ!」
「俺は告白なんかしてない。」
「!」

 少し強く握られた手を振り解こうと躍起になれば晒された耳へ柔らかいテノールが囁きかけてきた。言葉の内容に目を見開けばすぐそこに彼の左腕が見える。その腕を見つめたまま言葉を何度か頭の中で反芻させてそろりと見上げると苦笑を浮かべる顔が見えた。

「誰にも告白なんかしてない。」

 言い聞かせるような響きで言葉を重ねられる。それに瞬きを繰り返し喉の奥から声を絞り出した。

「…う…そ…」
「嘘じゃねぇよ。なんならハロに聞いてみるか?一緒にいたからちゃんと証言してくれるぜ?」
「…クリスティナ・シエラが…」
「あぁ、ミス・スメラギの腕掴んでたって?」
「…それで引き寄せるんだって…」
「頭を撫で回されたんでな。離してくれって理由で掴んではいたけど?」
「………」

 ぽかんとした表情で見上げてくる刹那にロックオンは笑みを深めてしまう。クリスから刹那と何を話していたか聞いている内に僅かな可能性を見出していたからだ。そしてそれは今限りなく高い確率で正解かもしれない、という位置にいる。

−「刹那って最近…よくロックオンを探してるよね。」

 こてんと首を傾げながらそんな事を言われてロックオンも首を傾げてしまう。

「俺が刹那を、じゃないのか?」
「うん。」
「そうか??」

 確認の意味で尋ねてみれば即答で頷かれて思わず宙を見上げてしまう。そんなロックオンを見上げながらクリスはくすくすと笑い、「当事者の方が分かりにくいのかも。」と補足してくれる。

「だって…刹那ってば、ロックオンが見当たらないと結構きょろきょろしてるんだもん。しかも一緒の部屋にいる時はじっと見つめてるし。」
「…マジで?」
「まじで。それに横に並んでる時なんて、よく見ないと分からないけど穏やかな表情してるように思うし。」
「…へぇ…」

 クリスの言葉にちょっと思い起こしてみる。横にいる時では確かに己からは覗き込みでもしなければ刹那の表情など伺えないが…傍目で見ると表情が綻んでいるという。それはつまり…

−俺が横にいると嬉しいとか?
「あとはそうだなぁ…誰かと話してるとちょっと眉間に皺寄ってるかな。」

 自らの眉間に指を当ててぎゅっとそこに力を入れて真似をしてみせるクリスをきょとんとした表情で見つめる。

「よく見てるな。」
「だぁってフェルトも刹那もその辺り同じなんだもん。」
「…あぁ。表情の変化が乏しい?」
「そうそう!」

− …とそんな会話を弾ませていたのは刹那もフェルトもあずかり知らないところで…
 とにかくそんな刹那の行動から推測できるのは…

『ロックオンを独り占め出来ると嬉しい』

 という事ではないのだろうか?

−ま、ほぼ俺の願望に近いんだがな…

 苦笑交じりに刹那へと意識を戻してみると視線をあさっての方向へ飛ばしてなにやら考え込んでいるようだ。

−あとはこの無自覚状態から抜けてもらわなくちゃな?

 何やらずっと頭の中でぐるぐると考え込んでいる刹那をこちらに戻すべく、頬へ口付けをすれば意図した通りびくりと肩を跳ねさせて振り向いてくれた。僅かに紅潮した頬と潤んだ瞳が普段の刹那から掛け離れた表情を演出している。そんな事を考えながらぐっと顔を近づけると横向きだった体を真正面から向き合うようにして隙間を作るように胸元へ手を添えられた。

「今度はいきなり投げるなよ?」
「…あんた次第だ…」

 ちょっと焦った顔でそんな反論をしてくるものだから思わず笑ってしまう。

「それじゃあ伝えたいことあるけどやめとくかな。」
「…なぜ?」
「こんなとこで投げられたくないし。」
「投げるような内容なのか?」
「お前さん次第。」

 決定権を逆に委ねれば思った通りむすっとした表情になった。それでも今の体勢から動かず微笑みだけ浮かべて首を傾げれば渋々口を開いてくれる。

「…教えろ…」
「命令形?」
「……」
「はいはい。分かったよ。その代わりこの状態で聞いてくれる?」

 ちょっとした意地悪のつもりがかなりご不興を買ってしまったようだ。もう少しで「もういい。」と拗ねられるところだった。苦笑を浮かべながら胸元に添えられた手を刹那の顔の横に縫いとめて伺いを立ててみる。すると押さえつけた両手を交互に見て少し考える素振りを見せたが、こくり、と小さく頷いてくれた。
 どこか緊張したような表情を無理矢理笑顔に変えているロックオンの表情を見上げながら刹那は静かに言葉を待った。僅かに上がった体温と早打ちし始める胸を悟られないようにと願いながらじっと見つめると、柔らかな曲線を描いていた唇が動き出した。

「刹那…愛してる…」

 ほの暗い明かりの中、涙の膜によってアルマンダインの瞳がキラキラと色鮮やかに煌く。

「…あ…い…?」
「そう。愛。」
「…それ…は…」
「んー…分かりやすく言えば…刹那が特別って事。」
「…特別…」

 ゆっくり瞬く瞳に吸い込まれるように顔を近づけると慌てて瞳を閉じられる。その行動に小さく笑って額に口付けを落とす。ちゅ…と音を立てて今度は目尻に押し当てると睫毛がふるりと震えたのが分かった。床に押し付けた指がきゅっと縋るように絡められる。

「ロックオン…俺が特別…だと…何?」
「何?…難しい聞き方してくるな。」

 顔だけでは飽き足らず耳にもキスを降らせていればふわふわとした声で聞いてくる。ずっと戦場に立っていただろう相手を思って別の言葉に置き換えてみれば言葉の結びつきが分からないらしく、結局尋ねられてしまう。小さく笑いながら顔を覗き込めばちょっと困った表情になっていた。合わせた視線をずらさないように見つめあったままこつりと額を合わせる。

「刹那が特別だから…こういうことしたいわけ。」
「んっ…」

 不安気に戦慄く唇を軽く吸い上げれば無意識に離れた唇を追いかけてくる。その唇にもう一度軽くキスを落として解いた指で撫で上げると、その指先すら追いかけるから留めるように押さえると不満げな顔をされた。

「俺は…刹那としかこういう事しない。刹那が特別だから。…分かる?」
「…ん。」

 こくん…と小さく頷いてくれた刹那の頭を撫でて頬に口付けを落とすと表情がふわりと緩む。

−…あぁ。これか…クリスの言ってた顔…
「…目の毒だな…」
「?」
「なんでもない。」

 思わず漏れてしまった言葉にきょとりとした顔をされて微笑混じりに濁して誤魔化してしまう。指先で首筋を撫でればくすぐったいらしく身を捩った。

「…刹那は?」
「……え?」
「刹那は俺の事。どう思ってるの?」

 少しだけ顎を持ち上げて覗き込めば明らかな焦り顔…視線を合わせ辛くなったのか僅かに瞳が泳いで反らされた。それを無理に合わせようとはせず、そのままに言葉を重ねる。

「まだムカムカしてる?」
「……してない…」
「じゃあ…今こうしてて…どんな感じ?」

 そっと聞いてみると戸惑いがちに瞳がこちらに向けられた。頬にかかる髪を払ってそっと頭を撫でてやるとふと瞳が細められる。唇を貪りたい衝動に駆られるがゆったりと唇が開かれたのでなんとか押し留めた。

「…胸が苦しい…」
「苦しい?」
「…でも…イヤじゃない…」
「…うん?」
「…どう…言い表せばいいか…分からないんだ…」

 先ほどまで拘束していた左手が床に投げ出されたままきゅっと握り締められる。絡めあった右手はもじもじとしながらも握る力を強めてきた。きっとこれが今の刹那にはいっぱいいっぱいなのだろうけれど…残念ながら散々煽られた男にとっては物足りない。

「じゃあ…刹那…これからする事がイヤだったら言ってくれる?」
「…な…に?」
「もっと刹那に触れて知って…感じたいから。」
「…俺を…?」
「そ。そうして…俺しか知らない刹那を作りたい。」

 手慰みに黒髪を弄り熱の篭った瞳で囁けば刹那の肩に力が入ったように見える。

「…そうしたら…俺しか知らないロックオンも作れる?」
「んー…作れるんじゃないかな?」
「…曖昧な答えだ。」
「お前さん次第だから?」
「……」
「どうする?イヤならやめとくけど。」
「…構わない。」

 重ねた手に力がこもり、髪を弄っていた手に離した手が重ねられる。微かに震えが伝わるのが緊張からだと思えば愛しい…ロックオンは笑みを浮かべて静かに顔を伏せていった。


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軽くお話が暴走気味…いや、寧ろロックオンが暴走気味?←
そして…刹那への説得って難しい!!!←

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