「ロックオン?」
「ちょっ、まて…刹那!」

 呼気が触れそうなくらいに近づいた刹那の両肩を掴みその場に座るように強く押せば抗うことなくぺたりと座り込んでくれた。聞くのが怖いが恐る恐る、確かめておかねばならないと腹をくくり、言葉にしてみる。

「…お前女なのか?」
「違う。」
「いや…違うっつっても…」

 はっきりと否定の言葉を告げるが、どう見てもタンクトップは僅かな盛り上がりを見せ、普段は隠された腰から太ももに掛けてのラインは確かに女らしい曲線を描いている。先ほど感じた筋肉とは明らかに異なる柔らかさが肌にまとわりついて離れない。無意識にその部分を手で覆い隠し刹那を見つめているとふと思いつくことがあった。

「お前さんは…女だろ…?」
「違う。俺は戦士だ。だから男だ。」
「…あ〜…そういうことね…」
「?何がだ?」

 もう一度言葉を重ねれば否定され、きっぱりと言い切るその瞳に一つの可能性を見出した。そしてその可能性はきっと高い確立で正解に違いない。

「うん…お前さんの体はどこからどう見ても女なんだよ。」
「けど俺は戦士だ。」
「あぁ、分かってる。けど、お前さんは女だ。戦士だけど、女なんだよ。」
「…戦士は…みんな男だと言われた。」
「そんなことないぜ?女でも戦士は山ほどいる。」

 確信に近いそれを確かめる為にも事実を突きつければ困惑の表情が向けられる。それとともに今まで信じていた事を覆され、不安を感じゆらゆらと揺れ動く瞳が助けを求めていた。

「お前さんは知らないだろうけど…何百年も前に女性が兵を率いて国を救ったって歴史もあるんだぜ?」
「そう…なのか…」

 途端に俯いてぎゅっと小さく体を丸めてしまった刹那にロックオンはそっと手を伸ばす。ふわりと頭を撫でて顔を覗きこむと涙に濡れているように見える潤んだ瞳とかち合った。

「刹那?何が心配なんだ?」
「…別に…」
「男でないとガンダムに乗れないとでも思ってる?」
「っ…」

 予想した通りにぴくりと跳ねる肩を苦笑を浮かべながら抱き寄せて安心させるように背中をそっと摩ってやる。するといくらか体の強張りが解けたのか頭を摺り寄せてきた。

「んなことあるわけないだろ?」
「…」
「男だろうが女だろうが…刹那は刹那だ。違うか?」

 優しく諭すように囁きかければ小さく頷いたのが分かる。小さく笑って頭を撫でてやると消えそうなくらい小さな声で「ありがとう」とつぶやいたのが聞こえた。そしてぎゅっと首に抱きついてきてロックオンがびくりと体を跳ねさせる。

「?…ロックオン?」
「…〜〜〜…」

 やんわりと腕を外されて剥がされるとむっとしながら顔を見上げる。するとどうだろう?その顔は真っ赤に染まり、耳まで赤くしながら背けられていた。

「??どうかしたのか?」
「…ど…どうかってなぁ…」
「…何か気に障る事をしてしまったか?」
「そうじゃなくて…」

 両肩をしっかり掴まれたまま首を捻れば明らかにうろたえられる。それを訝しげに見上げていれば泳いでいた目が決心をしたのかきっと正面からあわされてきた。

「俺だってただの男だからだな…その…」
「?ロックオンが男だというのは知っている。」
「いや、だからそうじゃなくてだな?」
「なんだ?」

 要点の掴めないロックオンの言葉に刹那は少々の苛立ちを感じながらもじっと続きを待つ。引き離されたままの体が外気に触れて肌寒さに小さく震えるとその事に気付いたロックオンは小さくため息を吐き出して両手を離した。

「ロックオン?」
「くっつくならせめてこっち向きにしてくれ。」

 そう言われて体を反転させられると背中に彼の体温が感じられる。するりと回ってきた腕を見下ろしてしばし考え込んだあと、刹那は首を反らして顔を見上げた。

「…でもこれではしがみ付けない。」
「…しがみ付きたいの?」

 こくりと素直に頷けば「…うーん…」と唸るロックオンの声が聞こえる。もう一度見上げると困った表情をするロックオンが見下ろしてくる。

「あのな…刹那…」

 じっと見つめて無言のままに言葉の続きを促せば体の前で組まれていた腕が解かれる。そうして随分言いづらい事を言わなくてはならないという苦悶の表情のままにロックオンは言葉を続けた。

「男ってのは…その…女の体の柔らかさに欲情するわけよ…」
「よくじょう?」
「…そ。」
「よくじょうすると何か困るのか?」

 耳慣れない言葉を素直に尋ねればがくりと首が項垂れてしまった。嫌悪感の感じることを聞いているのかと思えばそういうわけでもなさそうで…けれど知らない言葉は誰かに教えてもらわなければ何時までも知らないままだ。何より今まで色々な事を教えてくれたのはロックオンなのだから、今回も分かりやすいように教えてくれるだろうという期待もあったかもしれない。その期待通りに見上げていれば漸く観念したのか、「殴るなよ?」という前置きを付けてやっと教えてくれる気になったようだ。

「何が困るかっていうと…主に困るのは俺じゃなくてお前さんなの。」
「?俺が何を困らされるんだ?」
「んーとだな…こんな風に…」
「!?」
「滑らかな太ももとか見せられたり…」

 腰に回された腕をぐっと引き寄せられほとんど仰向け状態に寝かされると長い腕が伸び、立てた腿の裏を撫で上げられた。それにぴくんっと反応を返すとその手はするすると上り詰めて黒いタンクトップの下へもぐりこんでくる。

「ひゃ!」

 脇腹を撫で上げられくすぐったさに身を捩ると逃がさないと言わんばかりに覆いかぶさってこられる。

「肌に直接触れたりすると…もっと触りたいって欲が押さえられなくなんの。」

 ベッドの上に転がった状態で見上げたロックオンは普段の柔らかな笑みも先ほどまでの情けない表情も浮かべておらず、呼吸を止められてしまいそうなくらいに真剣な表情で覗き込んできていた。無意識に戦慄く唇をきゅっと噛み締めるとぐっと顔が近づいてくる。

「イヤだろ?仲間に…こうやって…」
「あッ!?」
「胸触られたりすんのは…」

 腰を掴んでいたはずの両手がいつの間にかさらに上り詰めている。固くなってしまった乳首を指先で弾かれてその温かな手がやんわりと小さな膨らみを包んできた。びりっと背筋を駆け抜ける痺れに溢れてしまった声に羞恥を感じて慌てて手で伏せるがすでに遅く、困惑の瞳で見上げれば瞳を細めて笑みを象るロックオンがじっと見つめてきている。互いの呼吸が感じられるほど近くにある瞳に魅入られたように動けなくなった。

「…ろっく…ぉ…」

 どれほどそうしたままでいただろうか…自然と震える声を絞り出して名前を呼ぶと捲れ上げられたタンクトップを元通りに直してくれた。ぼんやりとその様子を見ているとそっと背中の下に腕を差し込んで体を起こされる。未だ動揺で動けない刹那にベッドから滑り落ちた掛け布で包んでやるとロックオンはぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜていつもの笑みを向けてくれた。

「…分かった?」
「……ん…」

 こくりと頷く刹那の頭を撫でてロックオンは「…水を飲み行く…」と行って部屋から出て行ってしまった。それを見送って閉じる扉の音に刹那は俯いた。未だに忙しなく打ち付ける心臓の音が耳元で聞こえるような感じに襲われ、耐えるように体を小さく縮めるのだった。

 一方部屋から出てきたロックオンは備え付けの冷蔵庫を開くと中からミネラルウォーターを取り出して一気に煽る。半分ほど飲み干したところでずるりと、その場に座り込んでしまった。立てた膝に顔を埋め込み長いため息を吐き出す。

−…まずった…

 ペットボトルの持たないほうの手で髪の毛をかき回してふとその手を見つめる。ぼんやりとした視線の先に映る手には、目に見えないが先ほど触れてしまった柔らかく温かい感触が確かに残っている。手に吸い付くようなしっとりとした肌触りは滅多と味わえるものではなく、男慣れしていないその瞳が、困惑に染まる表情が己の視線を釘付けにしてきた。まだ幼いが確かに存在する女性の柔らかさを手で堪能して思わず口付けたくなってしまう。寸でのところでか細く自分を呼ぶ声に我に返り、笑いを浮かべて誤魔化したが…これからどうしたいいのやら…

−…あー…熱い…

 顔がほてり、体中が熱を帯びているのが分かる。まるで戦闘を間近にして興奮しているかの如く、溜まった熱は放出を求めて下半身に集まりつつある。その事実に深く眉間に皺を寄せため息を吐き出すと、シャワールームへと足を向けた。
 手早く着衣を脱ぎ捨てると少し冷た目の湯を頭から浴びて中心に手を伸ばした。吐き出される熱い吐息に手の動きを早めれば脳裏にぼんやりと人の像が結ばれる。ぎゅっと目を閉じてその像に集中すればやがてぼやけていた輪郭がハッキリしてきた。艶やかな黒髪、幼さを残した丸い輪郭、確かに紅潮した色を差す濃い肌の色、涙の滲む赤い瞳…微かに開かれた唇から吐き出される熱いため息に引き寄せられ顔を近づけ…

−「…ろっく…ぉ…」
「せつ…ぅッく…」

 ぞくぞくっと背を駆け上がる快感に熱が開放される。ぶるっと体を震わせると壁に背を預けて振り仰いだ。

「……最低だ…」

 再びがくりと座り込むとしばらくそのままシャワーを浴びていた。

 * * * * *

 あれから熱いお湯で風邪をひかないようにと体を温めて部屋に戻ると刹那が掛け布に丸まったままベッドに座っていた。入ってきたロックオンに反応して顔を上げる様はまるで迷子の子供が親に見つけてもらった瞬間のようだ。そんな刹那に苦笑を浮かべると隣のベッドから掛け布を掻き抱いて振り返る。

「そっちに寄ってくれ」
「え?…あ…う…」

 掛け布を抱えたままベッドの端に膝を乗せると言葉になってない声を出しつつずりずりと壁際まで下がってくれる。背中をぴったりと沿わせるとちらりとこちらを見上げてくる仕草に頭を撫でてやると包まったままの刹那の肩を抱いてごろりと寝転がった。抱き枕の要領で刹那を布団ごと抱き締めるときょとりと不思議そうな顔が見上げてくる。

「…ロックオン?」
「これならあったかいし互いに害はないだろ?」
「……あんたが…無理してないならいい…」
「俺がどう無理すんだよ?」
「………」
「刹那?」
「なんでもない…おやすみ…」
「ん?あぁ…おやすみ。」

 何かいいたげな表情をしたにも関わらず刹那は口をつぐんでしまい、滅多と言わないおやすみの挨拶までしてきた。呆気にとられながらも返事を返すと布に丸まった蓑虫状態でありながら体を摺り寄せてきてしばらくすると穏やかな寝息まで聞こえてくる。ぱちぱちと瞬いてそろりと顔を覗き込めば完全な眠りに落ちてしまっていた。

「……ふぅ…」

 決して起こさないように注意しながらもため息を吐き出して無意識に緊張していたのであろう、体の強張りが解けていった。
 腕の中に迎え入れた少年…いや、少女は人の温もりを求めているだけで、自分のような邪な感情など一切ないだろう。何より今まで男として生きてきたのだ。そんな感情を持ち合わせているかすら危うい。そんな刹那を今腕に迎え入れて…正直大丈夫とは言いがたい状況においてしまった、と後悔をし始めている。あまりにも寂しそうに、切なそうな表情を浮かべるものだから、つい甘やかしてしまった。ただ甘えたいだけの相手に対して己は雄の本能のままに掻き抱きたいと体の芯を疼かせている。…なんとも浅ましい…
 自己嫌悪に陥りつつも、安らかに眠りに着いたお姫様を一晩中眺めながらどうにかやり過ごすのだった。

 * * * * *

 次の日、ロックオンは欠伸をかみ殺しながら車の運転をして麓の街まで買い物に来ていた。刹那もひっぱり、自炊の為の材料をとりあえず二日分ほど確保しておくことにする。刹那に買い物リストの一部を渡し、自分は水分系の重いものを中心に購入していく。とはいえ、それもさほど種類も量もないのであっという間に終わってしまった。待ち合わせとして指定した噴水の前でロックオンは一つため息をついた。
 昨夜はなんとか誤魔化せたが、今日もとなるとさすがに寝不足で辛くなってくる。日中に昼寝をしておくのもいいが、今は進行形で任務の真っ最中だ。何時出撃命令が下るか分かったものじゃない。出来る限り万全の体勢でいるべきなのだが、どう考えても今のままでは無理だ。

−そうだな…とりあえず…夜にあの格好は肌寒いわな。

 ふと腕組みをして空を見上げる。そこには真っ青で抜けるような空が広がっているが、脳裏を焼くのは昨夜の刹那の姿だ。貧相といえば否定は出来ない体つきではあるが、少女であることは間違いないラインを描くその体はやりたい盛りの己にはかなりの毒に違いない。きょろりと周りを見回してちょうどよさげなアパレルショップが目に付く。ふらりと近づいて窓際にあるマネキンを見上げるとそれはプリーツのミニスカートにショートブーツとフリルの付いたトップスを合わせ、首から金の金具と淡い水色のガラス珠をあしらったネックレスがぶら下がっていた。

−刹那くらいの歳の子だったらこんな服着るよなぁ…

 今、刹那はいつも通り白い上着に赤いターバンをマフラーにして黒のスラックスを着ていた。あれではどこからどう見ても少年としか言いようがない。ふと顔のないマネキンに刹那の顔を重ね合わせると、なかなかに似合っているじゃないか、と自画自賛してしまった。そこでハッと我に変える。

−おいおいおいおいおい…これじゃあゲンジストーリーになっちまうだろ…

 がくりと首を項垂れて重たいため息を吐き出すともう一度顔を上げて若干の居た堪れなさはあるものの意を決して店の扉を押し開けた。服のサイズを全く知らないことに今更ながら気付き、とりあえず寝る時だからゆったりした服でいいよな、とLサイズのロングシャツを購入して元いた噴水前へと引き返す。
 まるで重大な任務をこなしたような気分で大きなため息とともに腰掛けるとものの5分もしない内に刹那の姿が見えてきた。俯き加減になっていた上体を戻すとこちらに気付いたらしく小走りで近づいてくる。それを可愛いなぁなどと微笑みながら見つめてから慌てて顔を引き締めすぐ傍まで辿り着いた刹那を見上げた。

「ご苦労さん。全部あったか?」
「いや、フェネグリークというものが見当たらなかった。」
「あぁ、そいつか。なかったらなかったでいいさ。あったらいいな、程度のもんだし。」
「そうか…」

 いい子だ、と頭を撫でてやると一瞬きょとりと驚いた顔をしたが、すぐに擽ったそうな表情へと変わる。緩く弧を描き細められた瞳と唇にしばし釘付けになると、ロックオンは力強く頷く。

「……よし、刹那。」
「?なんだ?」
「ちっと話したいこともあるし、どっかで茶、飲もう。」
「は?…え?」

 いきなり腕を掴まれて歩き出されてうろたえる刹那を気に留めずロックオンはずんずんと突き進んでいった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
我慢です、お兄さん。(笑)
お気に入りの子供を自分好みに育てる兄さんもありだけどなぁ…←

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